ジゾキュー2020総括(前半)

持続化給付金、通称「ジゾキュー」

2020年は、このジゾキューに深く関わった年になりました。新型コロナウイルス感染拡大という前例の無い全世界規模の大事件が起こった2020年。国の経済対策もまた、かつて類を見ないような非常事態的な制度ばかりでした。

中小企業や個人事業主・フリーランスなどを対象に、前年度売上比50%以上減という条件を満たせば、中小企業の場合は最大で200万円、個人事業主やフリーランスの場合は最大100万円の給付金が支給されるというのが、この持続化給付金という制度です。融資ではなく給付ですよ? 丸ごともらえるんですよ? こんな大規模な金のバラマキ政策、過去に見たことがありますか?

個人事業主やフリーランス向けの税務関係の小話などをちまちま執筆している僕にとって、この持続化給付金というものはまさにうってつけの研究対象でした。最初は軽い気持ちで「こうすれば申請できますよ」という手ほどき的なモノを書いていたんですが、これがまさか僕の2020年という年を象徴付ける話題になろうとは、思ってもいませんでした。

ジゾキューを通じて、いろんなことを学びました。いろいろなことを考えました。そして、いろいろな人と出会いました

2020年の持続化給付金というものを前後半に分けておさらいしながら、個人事業主の端くれである僕が学んだことや僕の気持ちの変化などについても、触れていきたいと思います。

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持続化給付金とは

持続化給付金の制度の詳細については、持続化給付金100万円をもらうにはの記事で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。

簡単に言えば、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年の売上が昨年2019年の売上より半減していれば、200万円あるいは100万円が国から支給されるというものです。

「売上が半減」と言っても、年間を通じて半減している必要はありません。12ヶ月のうちどこか1ヶ月(対象月)の売上が半減していれば、支給対象者となります。

売上半減

支給額の計算式は上記の通りです。多少ややこしいですが、要するにこの計算式の意味するところは、「売上が前年より半減した月が1ヶ月でもあれば、その最悪の月の最悪の売上が12ヶ月間ずっと続いた場合に予想される売上の被害分を補填する」ということです。

上の例だと、3月4月5月に売上が減ってしまっていますが、6月以降はなんとか持ち直して平常運転に戻っているので、その場合の実際の被害分は35万です。にもかかわらず、仮に3月の最悪の状態が12月までずっと続けば240万円の被害なので、その240万円を支給するよ、というのがこの計算式の意味です。

さすがにそれじゃぁ支給額が大きくなりすぎるので、中小企業は最大200万円、個人事業主やフリーランスは最大100万円という支給の上限が設けられています。

おわかりでしょうか。要するにめちゃくちゃザルな計算なんです。実際にはコロナウイルスの影響による被害額がわずかであっても、それを大きく超える100万円という額が簡単に支給されてしまう仕組みになっています。

本来、お金の融資とかなら、もっと審査が厳しくて計算も細かく行われます。それが給付(返済義務無しの貰いっぱなし)であればなおさらです。しかしこの持続化給付金という制度は、まさに国がお金をばらまくがごときゆるゆるの制度でした。

何故これほどゆるゆるでザルな制度なのか。

その大きな理由は、やはり「スピーディな給付」ということでしょう。突然襲ってきたコロナウイルスという驚異。非常事態宣言によって外出自粛が要請され、交通や飲食という直接的に打撃を受ける業種はもちろんのこと、それに関係するあらゆる業種が経済的な影響を受けました。

迅速に当面の経済を支援しなければ、中小企業や個人事業主はすぐに資金が尽きてしまいます。本来ならじっくりと厳しい審査をして給付すべきところですが、何しろ対象者が多い。ほとんど全職種ですからね。そうなると、個別に詳細な審査をするだけの人員も時間も用意する余裕はありません。

ここはもう、多少ザルであっても、とにかく早く給付するしかない。もしかしたらコロナウイルスの影響とは言い切れない微妙な事業者が含まれているかもしれない。もっと悪いことに、不正受給を企む事業者も申請してくるかもしれない。でも、そんなことを言っている時間は無いんだ。とにかく早く、困っている事業者に給付しなければ。

そんな理由から、この史上最大のゆるゆる給付金がスタートしました。もしかしたら、この大盤振る舞いによって支持率を獲得しようという、時の政府の思惑もあったかもしれません。

「こんなゆるい制度でいいのか?」ということに関しては賛否両論ありました。しかしほとんどの人は、この制度を受け入れていたと思います。

5月/初日組の放置問題とサ推恊の中抜き問題

ネットを通じたWeb申請のみを受け付けるという申請方法もあってか、申請受付が開始された5月1日は申請が殺到しました(後日発表によると、5月1日の申請は18万件)。

僕自身も5月1日の10時頃、つまり申請受付開始から1時間後に申請をしようとしたのですが、アカウント登録の段階で不可解なエラーが発生。というか、エラーの表示も無いまま登録前の画面に戻され、いつまで経っても先に進めないという状況に陥りました。

僕も技術者の端くれなので、「アクセスが集中し過ぎてサーバーの負荷の限界を超えているんだな」というのはなんとなく感じたので、またあらためてその日の夜に申請することにしました。

しかし、技術者の端くれとして、不安に感じた部分もありました。負荷が限界を超えてしまったのは仕方が無いとしても、それを想定したエラー処理が適切に行われていない。このようなシステムの場合、普通であれば「ただいまアクセスが集中しております。時間をおいて再度お試しください」などのメッセージが出るようになっているはずです。ところがこの持続化給付金のシステムは、何のメッセージも無く前の画面に戻されてしまった。もしかしたら、まだまだシステムにいろいろな不具合を含んでいるのではないだろうか…。

5月15日。「通常なら申請から2週間程度で給付されます」という謳い文句によれば、5月1日の初日に申請した人達(いわゆる初日組)は、もう給付がされている頃です。しかし、「まだ給付されていないぞ、どうなっているんだ!」という声が多数。彼らは「初日組」という同じ境遇の中、SNSなどで情報を交換し合い、その声は次第に大きくなっていきました。

その頃、持続化給付金事業を行う主体である中小企業庁からこの事業を請け負った「サービスデザイン推進協議会(サ推恊)」について、いろいろな問題が報道されるようになってきました。

まず、このサ推恊という団体の正体がよくわからない。そして、サ推恊は769億円で事業を請け負っていながら、大半の749億円を使って大手広告代理店の電通に再委託した。さらに電通は関連子会社やさらなる孫請け・ひ孫請けに再々々…委託をし、いわゆる「中抜き」が多数発生する多重下請け構造となっていたことが明らかになった。

初日組の給付遅延(放置?)問題と、サ推恊の中抜き問題。本来なら中小企業や個人事業主を救う素晴らしい制度となるはずだった持続化給付金ですが、開始2週間にして、すでに暗雲に覆い尽くされた状況になってしまいました。

ぼくの考察

この2つの問題に関して、当初から僕は意見を述べてきました。

まず初日組に関してですが、給付の目安は「2週間前後」というアナウンス。つまり、10日くらいで給付されることもあれば、18日や20日かかってしまうこともあるということです。しかし、5月15日、つまり14日経った時点で、SNSでは初日組の怒りの声で溢れていました。「2週間と言っただろう! まだ給付されないぞ、どうなっているんだ!」と。

僕はこれにすごく違和感をおぼえました。せめて3週間経ってから「おや、おかしいぞ?」と声をあげるのならまだしも、2週間を1日でも超過した時点で怒りの声。「2週間【前後】」と書いてあるのに、ちゃんと読んでいないのだろうか。

そして何より、無償で100万円をもらうという立場でありながら、どうしてこんなに申請者たちは横柄な態度で居られるのだろう。ちょっとくらい給付が遅れたとしても、かまへんかまへん、無理に急がんでもええで、もらえるだけでありがたいんやから…という感謝の気持ちは無いのだろうか?

確かに、非常事態宣言を発出して経済を停滞させたのは、直接的には政府だ。でもよく考えてみれば、経済を停滞させざるを得なかった最大の原因はコロナウイルス。ウイルスという回避困難な災厄や、ウイルスの発生源と言われる中国の武漢という都市に文句を言うことはあっても、政府に文句を言うのは筋が違うのではないだろうか。

未知のウイルスに対して、必ずしも政府が常に完璧な対応策を行うことができていたとは思いません。しかし、どこの国のどんな政府であっても、規模の大小はあれ、何らかの方法で経済を停滞させるという苦渋の選択をしました。

その見返りとして最大限の補償をするという、他国でも類を見ない手厚い支援、それが持続化給付金制度です。準備期間が短すぎたせいで、多少うまく回らなかったこともあったかもしれません。でも、総じて、これは感謝すべき支援策です。その気持ちは忘れないようにしたいものです。

さて、もう1つの問題が、サ推恊の中抜き問題

このようなとてつもなく大きな事業を請け負うケースは、他の業界でもよくあることです。例えば建設業などはその最たるものです。

そういう業界を知っていれば、元請けが中抜きすることや、電通という会社が一手に引き受けることや、多重下請け構造になることなどは、いわば当たり前のことです。一つの大きな事業を成すには、そのような形が一番やりやすいのです。

そういう観点で言えば、サ推恊以下を批判する報道等の多くは、僕の目にはどうにもズレているものばかりであると映りました。

一方で、中抜きするのはいいとしても、その中抜きの額は適正かどうか? 多重下請けにするのはいいとしても、下請け先の選定は適正かどうか? ということに関してはやや疑問視するべき部分があったのも事実だと思います。

6月/雑所得・給与所得フリーランスの問題

当時の経済産業大臣の発言によれば、持続化給付金は中小企業や個人事業主、およびフリーランスと呼ばれる人を対象にした給付という形の制度となる、ということでした。

この発言自身には特に問題は無いと思います。僕も「ふむふむ、なるほど~」という感じで理解していました。

しかし、この「フリーランス」という言葉が物議を醸し、大きな問題へと発展してしまいました。

大臣も、経済産業省も、そしてその下で実際に持続化給付金事業を預かる中小企業庁も、「個人事業主ってことは事業所得を得ている個人のことだな」と考えていたに違いありません。

ところがこの制度がいざ始まると、「フリーランスも対象だと言ったはずなのに、自分は対象になっていない! どういうことだ!」という悲痛な声が多く寄せられることになりました。

彼らの正体は、いわゆる雑所得フリーランス・給与所得フリーランス

税務的に考えれば、個人の所得には10の区分があり、その中で個人事業主と呼ばれるのは「事業所得」を得ている者のこと。他の区分の1つである雑所得はちょっとした小遣い稼ぎや副業などの場合の所得のことだし、給与所得はその名の通りサラリーマンが得る給料のこと。

要するに、税務的な観点から見れば、「雑所得フリーランス」「給与所得フリーランス」という言葉自体が、ある意味矛盾しているわけです。フリーランスとは事業所得を得ている者のことであり、フリーランス=事業所得者と言っても過言ではない。それが中小企業庁の当初の認識であったと思います。

しかし実際には、予想以上に多様な「フリーランス」の形態があるということが、はからずも持続化給付金制度によって明らかになりました。そのあたりの詳細は持続化給付金に対象拡大の兆し雑所得と給与所得のフリーランスへ持続化給付金対象拡大の記事をご覧ください。

かくして6月のSNSは、「持続化給付金の対象に雑給フリーランスを含めることを求める署名のお願い」で埋め尽くされました。署名の効果もあってか、経産大臣も幾度となく「そうなるように調整中」と発言し、6月29日にめでたく雑給フリーランスも持続化給付金の対象となりました。

ぼくの考察

そもそも「フリーランス」とは何ぞや、というのがこの問題の争点です。僕もこの問題について、いろいろと再考するきっかけになりました。

僕は事業所得者として確定申告を続けて8年。その中で少しずつ、「個人事業者」としての税務的な権利と義務というものを肌身に感じて学んできました。僕が実感して学んできたものは、基本的に中小企業庁の考え方と同じものでした。

そのあたりのことは、フリーランスと個人事業主の違いの記事にまとめています。

一方で、「たとえ事業所得者でなくても、自分は自分の仕事に誇りを持ったフリーランスだ。なのに持続化給付金の対象から外れているということは、お金のことももちろんあるけど、何より自分の仕事を否定されたような気がして悔しい」という声も聞きました。

僕は傷を舐め合ったりうわべだけの慰めを言ったりという気遣いができる人間ではないので、その人(仮にTさんとしましょう)とDMでやりとりをしたときも厳しい言葉を言いました。「事業所得でないということは、個人事業主ではないんですよ。だから、持続化給付金の対象外だったとしても仕方の無いことなんですよ」と。

しかし僕はTさんにこうも言いました。「でも、個人事業主であるかどうかというのは、所詮は法律上・税務上の区分の話。あなたが積み上げてきた仕事への誇りは、法律がどうであっても、決して失われはしない」と。

Tさんはその後、今後は事業所得で確定申告することを決心され、今まで全く勉強してこなかった簿記に関しても驚くべきスピードで習得され、「誇り」という心の面だけでなく、「制度上」という面でも立派な事業者になられました。僕にとって、これほどうれしいことはありません。

ところで、前述の 「持続化給付金の対象に雑給フリーランスを含めることを求める署名のお願い」 について。僕はこれについて少し違和感を感じており、いまだにもやもやしていることがあります。

6月当時、僕は毎日のようにtwitterで「持続化給付金」をキーワードにして検索をしていました。そうするとこの「署名のお願い」のツイートがたくさん出てくるわけですが、何か不自然なんですよ。

テンプレとなる文言と画像があるわけなんですが、同じ内容のツイートが別々の人から、それも昼夜を問わず(深夜でさえも)数分に1回あるという状況。いくらなんでも多すぎやしないか?

確かに雑給フリーランスという「制度の狭間」に落ちてしまっている人は一定数居るだろう。でも、それを叫ぶ人が不自然なほどに多い。署名を集めるのは良いことだけど、なんというか、実態にそぐわないほどに声を大きくし、数を水増ししているんじゃないか?

あるいは、これは邪推かもしれないけど、雑給フリーランスが対象になれば制度の穴を突きやすくなり、不正受給がやりやすくなる…と考えている詐欺師の輩も混じっているのではないだろうか? 署名の発起人はそんな不正な人物ではないだろうけど、詐欺師の輩に踏み台として利用されている可能性は否定できない…。

結局、今となっては真実はわかりません。ただ、6月29日に雑給フリーランスもめでたく持続化給付金の対象になった後、あれだけ多く居たはずのその「新規対象者」の声が、急速にSNSから消えていくのは感じました。本当に「制度の狭間」に落ちていた人は、それほど膨大な人数だったのだろうか?

7月~/野党合同国対ヒアリング

6月29日に雑給フリーランスへの支給対象拡大が行われたわけですが、申請要件にいくつか厳しい点がありました。主な点は以下の通りです。

  • 業務委託契約書の提示
  • 国民健康保険加入が必須
  • 誰かの扶養に入っている場合は対象外

せっかく対象が拡大されたのに、これでは全然申請できない。こんな条件、満たせるわけがない…。制度の狭間から救われたと思ったのも束の間、結局再び狭間へと叩き落された人たちの悲痛な叫びがこだましていたのが、この7月です。

ちょうど6月17日に国会の会期が終わり、持続化給付金の問題を議論する場は野党合同国対ヒアリングへと移りました。中小企業庁に対するこのヒアリングは週に1~2回行われ、前述の雑給フリーランスの厳しい条件の問題など、たくさんの問題が議論されました。

当ブログでは、ヒアリングのうちいくつかの回の感想を書いています。

ぼくの考察

政治に疎い僕は、野党合同国対ヒアリングというものの存在を知りませんでした。

議題は持続化給付金だけでなく、感染拡大実態解明、GoToトラベル、学術会議任命拒否問題、桜を見る会の真実追及など、多岐に渡ります。それぞれの議題に対して、関連する省庁の責任者(官僚)が出席し、野党の質問に対して答弁を行います。

政治オンチの僕が感じたのは、国会での野次だらけ・はぐらかしだらけの茶番より、このヒアリングのほうが具体的な問題1つ1つを噛み砕いて議論しているな、という印象でした。

そう、持続化給付金のヒアリングだけを見ていた頃は、そのように思っていました。

しかし、事のついでに他のヒアリングを見た時、その印象は撤回せざるを得ませんでした。

野党は、官僚が責任と権限を持つ立場でないのをいいことに、官僚を恫喝し放題。「パワハラだ」という非難の声が多くあがりました。一方の官僚も、壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返すだけ。責任を持てない立場だからある程度は仕方ないにしても、もう少し自分の言葉で何かをしゃべってほしいものです。でなければ、ヒアリングも結局国会の茶番と同じになってしまう。

その点、持続化給付金のヒアリングは、他の議題と一線を画していると思います。僕のブログでは厳しい感想も書かせてもらってますが、総じて、かなり良いヒアリングであったと感じています。

野党が官僚を恫喝したって何の得にも解決にもならない。むしろ、野党と官僚は同じところに向かって協力し合ったほうがいい。立場上、そしてカメラが回ってる中でのヒアリングという性質上、ある程度の論戦になることはやむを得ないですが、ある情報筋によれば、立憲民主党の原口議員と中小企業庁総務課の定光課長は、オフでは手を取り合って真剣に解決に向かって議論をしていたという話もあります。

動画として公開されているヒアリングの中での両者の言葉遣いや身振り手振り・態度などを見る限り、僕もそのように思います。多分、野党と官僚の間で何らかの信頼関係が築かれているのだろう、と。

それをもってしても解決が難しいこの持続化給付金問題ですが、恫喝と壊れたレコードに満ちた他のヒアリングよりは、はるかにいろいろなことを前に進めたと思います。

8月以降(後半)

8月以降(後半)の総括については、次の記事で。

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