事業所得が1円でもあると雑給フリ向け持続化給付金を申請できない理由

雑所得や給与所得で確定申告をしていたフリーランス(本記事では雑給フリと略します)でも持続化給付金が申請できるよう、2020年6月29日から申請対象が拡大されます。詳しくは、持続化給付金事務局発表の申請要領と、以下の記事をご覧ください。

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事業所得1円問題

この雑給フリ向け持続化給付金の給付対象者の中で、次のような条件があります。

(4)2019年の確定申告において、確定申告書第一表の「収入金額等」の「事業」欄に記載がない(又は「0円」)こと

申請要領より

つまり、事業所得が1円でもあると、雑給フリ向け持続化給付金は申請できないということです。この給付条件について、「不可解だ、なぜそんな条件をつけるんだ、それでは申請できないじゃないか!」という声が多くあがりました。

具体的には、以下のような収入の人が、とても困った状況に陥ります。

給与所得

塾講師や大学の非常勤講師などによくあるパターンなのですが、普通の雇用契約で(つまり社員として)雇われているのではなく、月給が保証されない委任契約で仕事を請け負っているにも関わらず給与という形で報酬が支払われているフリーランスの例です。(※普通の雇用契約の場合はフリーランスではないので、持続化給付金の対象にはなりません)

さて、コロナの影響により、2020年の3月から報酬がゼロという悲惨な状態。この人は本来、持続化給付金を満額の100万円もらえるはずです。しかしこの人には、塾講師の仕事以外にとても小さい規模の事業所得がありました。

事業所得

毎月1万円という小さな事業です。コロナの影響も受けにくく、ほぼ毎月1万円の収入があります。

さあ、困ったことになりました。

この人は事業所得と給与所得の両方の所得を得ており、「 2019年の確定申告において、確定申告書第一表の「収入金額等」の「事業」欄に記載がない(又は「0円」)こと 」という条件を満たしません。ほんのわずかの事業所得があるせいで、本来100万円もらえるはずの持続化給付金がもらえないのです。

このような人は従来からの事業所得のほうで給付金額を計算するしかなく、12万円-8,000円×12=24,000円しか給付金をもらえません。100万円のはずが24,000円!? これは激怒しますね。

事業所得1円問題には理由がある

なぜ事業所得が1円でもあると申請できないのか。こういう場合は事業所得が無いものとして計算に含めない形で申請を許可すればいいんじゃないのか。このわずかな額の事業所得も真面目に確定申告したのに、これでは無申告の人のほうが得するんじゃないか。

さまざまな不満の声があがりました。確かにその通りだと思います。逆に事業所得が主たる収入になっているフリーランス(本記事では事業フリと略します)の場合は雑所得や給与所得を計算に含めない形で持続化給付金を申請できるのに、これでは不公平です。

しかしよく考えてみると、これにはやむを得ない理由があるということが見えてきます。

 

持続化給付金には3種類の申請方法があります。

申請方法

5月1日に開始された法人向け申請と、事業フリ向け申請。そして6月29日開始の雑給フリ向け申請。この3種類の申請は、自由に選ぶことはできません。法人であるかないかは明らかですが、事業フリであるか雑給フリであるかもハッキリと区別されます。

事業所得が1円でもある人が事業フリ、事業所得が0円の人が雑給フリです。

そう、「事業所得が0円でなければ雑給フリ向け申請はできない」という一見不可解な給付条件を付けることによって、3種類の申請のうちどの申請が窓口となるか、ハッキリ区別されるわけです。言い換えれば、申請者がそれを自由に選択することができなくなっています。

この「自由に選択できない」というのは極めて重要です。それはなぜか?

例えば先ほどの「給与所得(委任契約)350万+事業所得12万」の人の例を見てみましょう。もしこの人が5月の段階で「自分は持続化給付金を24,000円しかもらえない。でも、わずかでももらえるのはありがたいから申請しよう」ということで申請していたらどうなるでしょう?

その後6月下旬になり雑給フリ向け申請も可能になったと判明しても、もうこの人は申請しなおすことはできません。持続化給付金の申請は1回きりだからです。もし申請方法を自由に選択できるとしたら、この人は6月下旬まで待っていれば雑給フリ向け申請をして100万円もらえていたことになります。

後付けの制度拡大によって、先に申請した人が損をしてしまうことになるわけです。これではあまりにも不公平です。

それこそ、「自分は給与所得フリーランスだけど持続化給付金の対象にならなかった!」という人たちの不公平感の比ではありません。後付けのルールによって後から申請した人のほうが得をするという不公平。それによって起こるであろう激怒と怨嗟の声の大きさは、想像を絶するでしょう。

しかし、申請窓口を自由に選択できなければ、そのようなことは起こりません。事業所得が1円でもある人は、5月の段階で申請しても、6月下旬の制度拡大後に申請しても、やはり事業フリ向け申請を選ぶしかありません。後付けのルールが既存のルールを壊していないので、不公平な事態にはならないのです。

このたびの雑給フリ向け持続化給付金の制度策定においては、どのような申請ルールを作れば、困っている人を多く救済できるかという観点が重要です。しかしそれと同時に、新しいルールによって既存のルールに従った人がバカを見るようなことにならないか、という既存のルールとの整合性も重要です。それが公平なルールというものです。

他にやり方は無かったのか

つまり、制度を拡大しても不公平にならないようにするのが、事業所得1円問題が存在している理由になります。

もし5月の時点で最初から雑給フリ向け申請も可能であれば、申請窓口を選択できたとしても不公平さはありません。しかしルールを後付けにした以上、こうするしか無かったのです。

でも、それが唯一の方法ではありません。他のアプローチを取れば、不公平さを無くしつつ、「事業所得が0円でなければならない」という厳しい条件を付ける必要もありませんでした。

例えば、5月1日~6月28日に事業フリとして申請した人に限り、雑給フリ向け申請への振り替えを1回限り認めるという特例を設ける方法。振り替えによって増加する給付金の差額を後から追加で振り込めばOKという仕組みです。

そのような特例の仕組みを作るとすれば、必要なシステム改修と審査体制の強化にはさらなるコストがかかることでしょう。そこまで完璧なシステムを構築していたら、6月29日申請開始という早い対応は無理だったかもしれません。

ルールの追加は難しい

既存のルールに新しいルールを追加するというのはとても難しい作業です。既存のルールで対象外になってしまった人の声をそのまま聞いて「じゃぁあなたもOK、あなたもOK」というふうに「ハイハイ」と返事すればいいというわけではありません。

新しいルールを追加するには、既存のルールに従った人がバカを見ることがないよう細心の注意を払わないといけません。

その困難なルール策定作業を最大限のスピードで行い、6月29日に制度拡大にこぎつけたのは、なかなかの速さだったのではないかと僕は思います。

しかし諦めてはいけない

既存のルールに従った人への配慮、それが「事業所得1円問題」の理由です。少なくとも僕はそう思います。しかし、だからと言って、前述の給付金が24,000円しかもらえないような人に対して「納得しろ、文句を言うな、諦めろ」と言っているわけではありません。

事業所得1円問題によって、必要な額の給付金がもらえない人が居るのは事実です。たとえルールの策定が困難だとしても、そのような人が居るのはまぎれもない事実です。このような事実に対して諦めずに声をあげていくことはとても大切なことだと思います。

でも、声の上げ方はよく考えたほうがいい、というのが僕の持論です。「事業所得が0円でなければならないなんてルール、意味不明! 事務局はアホだ! どうせ金を配りたくないだろう!」というふうにルールの意味も考えずに感情のままに声をぶつけていたのでは、事務局側も取り合ってくれないかもしれません。

そうではなく、「おそらくこのルールが存在している理由はこれではないか? だとすれば例えばこのような代案はどうだろう。コスト的に難しいかもしれないが、どうかご一考頂きたい」と迫れば、事務局側も「なるほど、これは考えてみる必要がある」となり、改善に向かいやすいのではないでしょうか。

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