持続化給付金2020年7月7日野党合同国対ヒアリングの感想

2020年7月7日、持続化給付金に関する野党合同での中小企業庁に対するヒアリングが行われました。このヒアリングは数回行われており、特に雑所得フリーランスと給与所得フリーランス向けの持続化給付金(以降、本記事では「雑給フリ向け持給金」「2次持給金」などと略します)の申請が始まってからのヒアリングは今回が2回目。

今回7月7日のヒアリングのテーマは、

  • 現在の審査完了数、不備等再審査中の件数について
  • 雑給フリ向け持給金の対象者となる条件が厳しすぎる件について
  • サービスデザイン推進協議会以下の孫請けや曾孫受け等、下請けの組織体制図について
  • 2020年開業特例での持続化給付金申請について
  • GoToキャンペーンについて

などでした。本記事ではその中で特に、雑給フリ向け持給金の対象者となる条件が厳しすぎる件についての質疑応答部分を観て、僕が感じたことを順不同で書き綴っていきます。

書きおこしをしたわけではないので一言一句合っているわけではありませんが、概ねこのようなことを言っていた、という感じで内容を紹介していきます。

実際のヒアリングについては、以下の動画をご覧ください。

質問者は、野党各党の原口議員、山井議員、阿久津議員、その他(以下、まとめて「野党」と表記します)。

回答者は主に、 中小企業庁総務課の高倉課長(以下、「担当課長」と表記します)。この担当課長が、持続化給付金の実質の責任者になるようです。その他の回答者として、厚生労働省から1名、国税庁から1名。すいません、名前や役職はわかりませんでした。

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2次持続化給付金の申請件数

野党

2次持給金の現在までの申請件数は何件ですか?

担当課長

およそ1万件です

野党

はい。それでね、こちらでアンケートを取ったんですよ。雑所得・給与所得のフリーランスの人の中で、2次持給金の対象になった人はどれくらいですか、と。そしたら50%の人が対象になってない。そんなにも多くの人がはじかれてるんですよ。これは制度設計に問題があるんじゃないですか?
大体、1次持給金の申請件数190万件に対して、たったの1万件ですよ。1%にも満たない。こんなにも多くの人が対象から外れてることをどうお考えですか?

こんなやりとりがありました。さて、ここで野党側が、巧みに論点をすり替えたことにお気付きになられたでしょうか?

アンケートにより、2次持給金で対象外になった人は50%。2次持給金の対象者条件が厳しいかどうかは、この50%という数字が表しています。約半分。確かに、対象者条件が厳しすぎたと評価してもよい数字でしょう。

しかし野党はこう続けます。「1次190万件に対して、2次1万件」。いやいやちょっと待て。それは法人+事業所得フリーランスに対する、雑所得+給与所得フリーランスの比率でしょ。さっき50%だと言ったから実際は2倍、そして申請からまだ10日しか経ってないからそれを加味しておよそ3倍。つまり6万人の雑所得+給与所得フリーランスが居るというわけです。

おかしくありませんか? 多くの雑フリ給フリが声をあげたからこそ実現したこの2次持給金。しかしフタを開けてみたら、対象者・対象外含めて6万人しか居なかった。190万に対して6万。もう一度言います。これは、雑所得フリーランス(=通常の個人事業主)に対する雑所得+給与所得フリーランス(=イレギュラーな確定申告をせざるを得なかったフリーランス)の比率。

要するに、「1次持給金で多くのフリーランスが対象から漏れた」と言っていたはずなのに、たったこれだけしか居なかったのです。しかも野党はこの比率を「2次持給金での対象外者の比率」という全然違う数字にすり替えて強弁したのです。

これは極めて重大な印象操作です。もしかしたらそんなつもりはなく、中小企業庁を問い詰めたい一心が前に出過ぎてしまって間違えただけかもしれませんが、ここは決して読み違えてはいけない数字だと思います。

2次持続化給付金申請Webページへのアクセス数

野党

2次持給金の申請Webページへのアクセス数はどれくらいですか? その数字を出すように前回(注:2次持給金申請開始翌日の6月30日のヒアリング)お願いしていたはずですが?

担当課長

申し訳ございません。前回確かにお伺いしておりましたが、まだ統計が取れておりません。

野党

何をやっているんですか! こっちは遊びに来てるんじゃないんですよ。この豪雨災害(注:当日は大雨)の中、こうやって来てるんですよ! 前回も言いましたが、アクセス数というのは、申請のページを見て申請要件を確認した人がどれだけ居るか、つまり、要件を確認して対象外だった人がどれだけ居るかを示す大切な数字なんですよ!

うーん、どうでしょう…。全ての雑フリ給フリの人がまず最初に申請Webページを見て、そこで「自分は対象だからこのまま申請を進めよう」「自分は対象外だからやめておこう」と決めるのでしょうか? しかも、IPが変わって何度もアクセスする人もおらず、そもそも雑給フリじゃない人(例えば僕のように、この件に興味がある人)は一切申請Webページにアクセスしない、なんてことがあるのでしょうか?

そうであれば申請WebページのPV(ページビュー)も参考になるかもしれませんが、PVでわかるのは結局「2次持給金に興味を持った人」の総数。そこから実際に対象者となって申請ページの中にまで進んだ人の比率を算出すると、それは相当低い数字になるような気がします。

またもや、印象操作を画策してるような匂いを僕は感じました。

新型コロナウィルス感染症対応休業支援金と持続化給付金の関係

実はこの日(2020年7月7日)、労働者に対して国が直接休業補償を行う「新型コロナウィルス感染症対応休業支援金(以降、休業支援金)」の申請要件が発表され、7月10日に申請受付が開始されることが決定しました。

事業者に対する支援である持続化給付金と、労働者に対する支援である休業支援金。フリーランスというのはある意味、事業者と労働者のはざまの存在。なので、この2つの支援策がどのように相互に関係しあってるかは重要な問題です。

そこでこの日のヒアリングには、休業支援金を管轄する厚生労働省の担当者も同席していました。

野党

休業支援金の申請要件を教えてください

厚労省

申し上げます。まず第一に、会社に雇用されている正社員、契約社員、パート、アルバイト等。そして第二に(中略)
以上が要件となっております。

野党

休業支援金の対象となっていないフリーランスは、持続化給付金で支援されるのですか?

担当課長

えー、持続化給付金は5月1日から申請受付を開始致しまして、多数の事ぎょ、事業者を支援する制度として行ってまいりました。現在190万件の申請があり、えー、そのー、

野党

それはいいんですよ。フリーランスはどうなんですか!?

担当課長

それに関しましてはですね、えー、6月にじゅうろ、6月29日より対象を拡大しました申請におきまして、多くのフリーランスを対象としており、えー、しかし、そのー、もともとの制度が違うものですから、必ずしも、は、は、えー、対象が排他的になっているとは限りません。

だめだこりゃ。厚生労働省の完璧な答弁に対して、中小企業庁の担当課長は完全にしどろもどろ

野党のこの質問は確かに重要なポイントです。休業支援金と持続化給付金は相互に補完し合っているのか。いわゆるフリーランスは必ずどちらかの支援を受けることができるのか。それをささっと答えてくれればいいのに、その回答となる「排他的ではない」にたどり着くまでにめちゃくちゃ回りくどい担当課長。

これまでのヒアリングでもずっと感じていたことですが、この中小企業庁総務課の高倉課長、持続化給付金の責任者であるにも関わらず、なんもわかってない

一言で言えば、持続化給付金がグダグダなのは彼が全ての原因ではなかろうか…。

給与所得から事業所得への修正申告は可能か?

給与所得フリーランスの場合(雑所得もですが)、国民健康保険に加入してない人や、被扶養者の人は、2次持給金の対象者にはなりません。これが2次持給金の一番の問題であり、野党合同ヒアリングが開催された大きな理由の一つです。

そのような給与所得フリーランスの人が事業所得へと確定申告を修正申告できるかどうか。これについては同席していた国税庁の担当者から明確な回答がありました。

国税庁

給与所得を事業所得として修正申告を行う場合、実態に即して、遡及して5年間分の修正が必要になります。過去5年分の領収書等を保存して経費等を計上し、帳簿を5年分作成することで修正申告が可能となります。また、給与所得控除等が無くなるわけですから、それにあわせて所得税額を再計算していただく必要があります。源泉徴収税につきましても同様に修正し、給与支払者だった事業者に是正を求める必要があります。

ふむふむなるほど。不可能ではないけど、なかなか高いハードルですね…。

それにしても、この国税庁の人もすらすらと完璧な答弁。中小企業庁の担当課長だけがしどろもどろという始末。その対比がすごい…。

税務署の所得区分指導について

国税庁

税務署では通常、所得区分がわからないという確定申告者様に対しまして、「事業内容がこれこれで、事業規模がこれこれで、帳簿作成をしてる/してないのなら、事業所得/雑所得にあたるのではないか」というアドバイスは行っておりますが、あくまで所得区分の可能性をお示ししているだけであり、最後は確定申告者様の自らのご判断に委ねております。
また、税務署はあくまで一般的な見解をアドバイスするだけであり、持続化給付金のような個別の制度を受けるに際して、「こうしたほうがいいのではないか」というようなコンサルタント的な業務は行っておりません。

ふむふむ。よく、「税務署で雑所得にしろと指導されたから雑所得にした」というフリーランスの人の言葉を耳にしますが、あくまでそれは強制ではなく、最後は申告者自らの判断に委ねていたということでした。

実際の現場では税務署職員の言い方一つなので、全職員にそれが徹底されていたかどうかはわかりませんが、とにかく基本的にはそういうことらしいです。税務署が無理やり雑所得を強制するようなことは、(基本的には)無かった。

また、「持給金を受けるためのアドバイスはしていない」ということでしたが、親切な職員からいろいろ教えてもらったという話もよく聞きます。このあたりは現場判断なのでしょう。

申請不備について

担当課長

申請の不備に関してですが、例えば開業届が必要とされているところで開業届が添付されていなかった場合、営業許可証ですとか、そのようなものでも審査が通るよう進めております。

野党

だったらそのように申請要領に書けばいいじゃないですか、営業許可証でもOKですよ、と。申請要領には書いていないんですか? また、それは審査員のマニュアルに反映されていますか?

担当課長

えー、できるだけそのような不備があった場合にもですね、可能な限り対応していくと申しますか、えー、ごにょごにょ、ごにょごにょ ごにょごにょ ごにょごにょ ごにょごにょ ごにょごにょ ごにょごにょ ごにょごにょ (中略)
申請要領には反映しておりません。また、審査員マニュアルにも記載はしておりません。

要するに、できる限り申請に不備があっても通すようにはしているが、そのための一貫したルールが存在しないということ。そのルールを誰が決めるのか、どの範囲の審査員にまで情報が共有されるのか、などなど、現場の指揮命令系統は完全に崩壊しているようです。

例えば、事業所得オンリーの1次持給金の申請なのに、雑所得で申請して審査が通ったという例もあります。これは「不備でもぎりぎり通す」というレベルを超えて完全に審査ミスですが、一体誰がその判断をしたのか、責任は誰にあるのか、もはや統制することはできない状態に陥ってるようです。そこをちゃんとしろって言ってるんですよ、担当課長さんよォ!

まぁとにかく、不備があろうが添付書類が揃って無かろうが、運が良ければ審査が通るということです。これは喜ぶべきことなのか、それとも憂うべきことなのか…。

2次持給金でなぜ国民健康保険加入が条件になっているのか

野党

2次持給金では国民健康保険への加入が必須条件になっています。これでは多くのフリーランスが救われません。総理はおっしゃいましたよ?「全てのフリーランスに給付する」と。あれは嘘なんですか!?

担当課長

全てのフリーランスに、というのは少し語弊があると申しますか、事業者であれば通常は国保に入っているという想定でございまして、雑所得や給与所得の方が持続化給付金の対象になり得るかどうかに関しまして、どのように判断するかをわたくしどもと致しましても、議論を重ねてきたところであり…

野党

国保に加入してなければフリーランスじゃないということですか? あー、そうか、「フリーランス」の定義が我々と違うんだ。では、あなたの「フリーランス」の定義を教えてください。

担当課長

あくまで、事業をやっているかどうかという判定であり、誰でも彼でもというわけにはいかず、その対象を絞るためにですね、えー、

このくだりは実際の動画を見たほうがいいかもしれません。このやりとりに、全ての本質が含まれていると僕は感じました。

つまり、野党も梶山経済産業大臣もアベ総理も、「フリーランス」という言葉にそれぞれが思う明確な定義を持っている。おそらく、「いろんな働き方をする人全員」くらいのフワっとした定義なのでしょう。

一方、持給金の申請要件を実際に設計した実担当者(おそらくこの担当課長ではなく、その下の専門部隊)は、「フリーランス」という言葉が正式な法律用語ではないことをよく知っている。それなのに経産大臣やら総理やらが「フリーランスに給付」なんていうフワフワしたことを言うもんだから、さぁ困った。政治家はいつもフワフワしたことを言いやがって。実際に苦労すのはこっちなんだぞ。

という不満を抑え、まずはこの持続化給付金の対象者がいかなる者なのかを判別する仕組みを作るために申請要件を作った。申請要件に含まれているか外れているかこそが一番重要かつ厳密な対象者判定方法なのであり、おのずとそれが「フリーランス」という言葉の(少なくとも持給金においての)定義となるであろう。

1次持給金の申請要件を設計するのは比較的ラクだったが、2次持給金の申請要件を設計するのは困難を極めた。「事業性のある雑所得」はまだやりやすかったが、「事業性のある給与所得」なんてものはハナから矛盾している。それでも、設計担当チームとして、期日までに制度を作り上げなければならぬ…。

おそらくそんな舞台裏があったのでしょう。それはそれでやむを得ないことだったのかもしれません。しかし問題はそこではありません。

一番大きな問題は、担当課長がこの「フリーランス」という言葉の取り扱いの難しさを、全く認識していないということ。野党が自分たちの思う「フリーランス」で議論をしてきていることもわかってないし、その難しさを解消するために部下のチームがこのような制度を設計したこともわかってない。話のどこがかみ合ってないのかが全くわかってない

なんもわかってないのに責任者として答弁を行う担当課長。その雰囲気はヒアリングの実際の動画からひしひしと伝わってきます。ああ、だめだこりゃ…。

そして野党の追及は続きます。

野党

とにかく2次持給金は、全てのフリーランスを救う形にはなってないんですよ。どんなフリーランスでも給付を受けられると言ったのは総理ですよ? なのに、このように対象を絞った。それは誰が指示したんですか? ちゃんと途中途中で梶山経産大臣に報告はしていたのですか?

担当課長

はい。えーとですね、大臣にはその都度、ほ、報告はしておりました。し、指示、えー、さまざまな指示もありました。

いや、ウソやろ…。ウソでないにしても、下からの報告も上からの指示も、全く理解できずに適当に流しただけやろ…。

まぁそんなこんなの担当課長ですが、それでも最後は僕たちが知りたいことを言ってくれました。

担当課長

事業性を持った雑所得や給与所得の方をどう判定するかの方法を模索しておりました。しかしながら、確定申告書上は「雑所得」「給与所得」としかわからないわけで、そこから事業性の実態を知ることは難しく、おおよそ「こうであろう」という形で対象者を絞る条件を作りました。

というわけでした。

結局、国民健康保険加入が必要であることや、扶養に入っていないということ、それで事業性があるかないかを判定できるであろう。そして給与9割+事業1割のような事業者は居ないであろう

そうして作られたのが、この2次持給金の申請要件ということでした。まぁ、制度設計担当チームはおそらく優秀だと思うので、もっと時間があって、もっといろいろなケースを調査することができれば、より精密な制度を作ることはできたかもしれません。しかし、限られた期限の中では、ある程度「こうであろう」で進めるしか無かったのでしょう。

まとめ

一つ大きな問題だったのは、やはり「フリーランス」という言葉の問題。総理や大臣がフワっとしたこの言葉を使ったとき、すぐに「そのためにはまず明確に『フリーランス』を定義して、それに即した制度設計にする必要がある」と中小企業庁が言っていれば、このようにフワフワしたまま暴走することも無かったかもしれません。

総理や大臣なんて、所詮ただの政治家だもの。ちゃんと役人が、その奇怪なトップダウンの指示を具体的な形に落とし込まなきゃ、ね。

そして何より最大の問題なのが、下への指示も上への報告も、間に何もわかっていない人が立って伝言ゲームを行い、なにもかもを崩壊させてしまったということ。

担当課長はん、別にアンタに恨みは無いし、罵るつもりもありまへん。でも、国民のことを思うのなら、そっとその場から静かに去りなはれ…。

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