持続化給付金の趣旨は何だったか

コロナウィルス感染症により大きな影響を受けている事業者に対して、法人最大200万円、個人最大100万円の支援が受けられるという持続化給付金制度。

2020年5月1日からその申請受付が始まり、2ヶ月半が過ぎました(執筆2020年7月19日)。

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持続化給付金の趣旨・目的

まずは経済産業省のホームページより、持続化給付金に関するお知らせのページの冒頭の文を見てみましょう。

感染症拡大により、特に大きな影響を受けている事業者に対して、事業の継続を支え、再起の糧となる、事業全般に広く使える、給付金を支給します。

経済産業省:持続化給付金に関するお知らせ

次に、申請規程より、持続化給付金の趣旨・目的に関する部分を見てみましょう。

第1章 趣旨・目的
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴うインバウンドの急減や営業自粛等により特に大きな影響を受けている、中堅企業、中小企業その他の法人等及びフリーランスを含む個人事業者(以下「個人事業者等」という。)のうち、給付対象者に対して、事業の継続を支え、再起の糧としていただくため、事業全般に広く使える持続化給付金(以下「給付金」という。)を給付するものとする。

中小企業庁:持続化給付金申請規程(個人事業者等向け)

※中小企業庁は経済産業省の下に位置する組織です。持続化給付金の実質的な業務は、中小企業庁が担っています。

さて、いずれも共通しているのは、「事業者」に対して、「事業の継続を支える」ために、持続化給付金という制度が創設されたと謳っているところです。

しかしここで問題となるのが「フリーランス」という言葉。

このフリーランスという言葉によって、持続化給付金という制度は大混乱となってしまいました。

フリーランスを含む、とは?

持続化給付金がいつ誰によって発案されたかはわかりません。しかし我々は最初、それを総理や経産大臣の発信したメッセージによって知ったと思います。

今となってはその最初の原文を見つけることはできませんが、おおよそこんな感じの発表だったと思います。

政府

全ての会社を対象に最大200万円、そして個人事業主やフリーランスの方に対しては最大100万円の給付を、致します。これはまさに、まさにですね、この日本を支えておられるフリーランスの方にも、漏れなく、全ての方を対象に、まさに、政府と致しましては、この経済大国日本を支える技術を持ったフリーランスの方にこそ、えー、まさにですね、(以下略)

こんな言い方をしたかどうかはわかりませんが、とにかく「フリーランスと呼ばれる人達を大々的に対象とする」というメッセージが強調されていたように思います。

総理や経産大臣は適当に「フリーランスを含む」と言えばいいだけかもしれません。しかし実際の給付業務にあたる中小企業庁は、「フリーランスって何?」と思ったはずです。なぜなら、「フリーランス」という言葉には明確な定義が無いからです。

さて、ここに1つ、興味深い厚生労働省の資料があります。一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会というところが作ったフリーランス白書というものです。その中の一文を引用してみましょう。

フリーランスという言葉は、実に玉虫色な表現である。その言葉を聞いて想起する存在がどういったものなのかについて、日本ではまだ確固たるイメージが固まっておらず、フリーランスについての対話をしているつもりが、それぞれが全く別の議論をしているということは珍しくない。フリーランスという存在が、雇用システムを前提とした日本社会においてまだマイノリティであり、多くの人にとって身近にフリーランスのロールモデルがいないことも、議論を難しくしている。

フリーランス白書2018

この資料の中で「広義の(広い意味での)フリーランス」としていろいろな定義がなされていますが、それはあくまで資料内での話です。この資料の中ではフリーランスとはこういう意味ですよ、と定めた上で議論を展開しているにすぎません。

ですが、総理や経産大臣が言った「フリーランスを対象に」という言葉は、この資料に書かれている意味での「フリーランス」を想定していたのではないかと思われます。そしてそれを聞いた我々国民の多くも、そのように理解したと思います。

一方で、持続化給付金のような何らかの制度を策定するときは、働き方がどうであるかというより、法律上の区分として「フリーランス」を明確に定義しなければいけません。その最も最良な方法が、税制による定義です。つまり、フリーランスとは少なくとも事業収入を得ている者(=個人事業主)である。それが中小企業庁の認識であったと思います。

すれ違いを解消しなかった中小企業庁と経済産業省

かくして、2つの異なる「持続化給付金の対象はコレだ」という認識が同居する事態となってしまいました。

経済産業省の認識
中小企業庁の認識

どちらが先だったのかは今となってはわかりません。しかし、総理や経済産業省と経産大臣、そして野党や多くの国民は上のような図を想像して申請開始の5月1日を待ちました。

一方、給付業務の実担当である中小企業庁や間接的に影響のある国税庁、そして事業収入というものが税制上どういう位置付けなのかをよく知る個人事業主や法人の多くは、下のような図を想像していたと思います。

メディアに流れる総理や大臣の再三に渡るメッセージには、給付の対象者が上の図を想定したものであるかのようなニュアンスを含んでいました。一方、中小企業庁が事前に発表していた給付規程や制度の趣旨の文面からは、給付の対象者が下の図を想定したとおぼしきニュアンスが含まれています。

行政の組織図で見ると、経済産業省と中小企業庁の間に確実にすれ違いが存在していたと思います。

経済産業省と中小企業庁

このすれ違いに気付いていた人も居たかもしれません。しかし結局、経済産業省と中小企業庁で認識のすれ違いが解消されないまま、5月1日の申請受付開始を迎えてしまいました。

もともと持続化給付金は、中小企業庁が考えるような下の図を想定した制度だったと思います。なぜなら、名称が「持続化」だからです。つまり「事業を持続化させる」という趣旨が最初にあって、それに則した名称が付けられた。これは事業に対する給付であって、人に対する給付ではない。そのような主張が、「持続化給付金」という名称から感じられます。

しかし、メディアを通じて流れた持続化給付金のイメージは、上の図のようなものでした。この日本で働く人の種類として、サラリーマンやアルバイトやパートやフリーランスという形態がある。サラリーマン等の被雇用者は会社から休業補償が出るけど、フリーランスにはそのような補償が無い。だから、持続化給付金という制度によってフリーランスを支援しよう。これは彼らの生活を支援するための、人に対する給付である、と。

事業に対する給付か、人に対する給付か。この違いは大きな違いです。制度そのものの趣旨がまるっきり違います。

とにかくこのすれ違いによって、雑所得フリーランス・給与所得フリーランスという問題が浮上してしまいました。上の図を想定していた人たちは、「フリーランスの全てが対象となるはずなのに、なぜ所得区分の違いだけで対象から外されてしまうのか」と、怒りの声をあげました。

雑所得給与所得フリーランス

そのような声を受け、雑所得や給与所得で確定申告をしたフリーランス(2次対象)にも給付対象が拡大された経緯は、以下の記事にまとめています。

この2次拡大後も、まだ少し対象から漏れているフリーランスの人が居ます。被扶養者などがその顕著な例です。

2次からも漏れたフリーランスの扱いをめぐっては、中小企業庁と野党が、合同ヒアリングという場で数回議論をしています。その様子はyoutubeでも見ることができます。

この野党合同ヒアリングの様子は、文章からは決して伝わらない微妙な思惑が見てとれるので興味深いです。人がうなずくタイミング、人が顔をしかめるタイミング、答えに詰まるタイミング、言葉の微妙な言い回し。

そこから僕が感じたのは、中小企業庁と経済産業省は、この期に及んでまだすれ違いを解消していないだろうということ。何か相談しにくい理由でもあるのでしょうか。それはもしかしたら、些細な人間関係が原因なのかもしれません。怖い上司に相談しにくい部下、みたいな?

いずれにしても中小企業庁は、「せっかくウチでしっかり制度設計したのに、大臣とかが適当なこと言いやがって。確認を取ろうとしても、あいつら(大臣ら)は話が通じないし。やってられねーよ」とでも言いたげな顔をしていたように僕は思いました。

…と。

これはあくまで僕の想像です。でも、人の表情に注意して合同ヒアリングの動画を観てみてください。なんというか、中間管理職の苦悩のようなものが見えてくるのは、僕だけでしょうか。

人に対する給付は無限に拡大する懸念がある

対象拡大

フリーランスという言葉は、明確な定義の無い曖昧な概念です。1次対象は「事業所得者」に限られていたために区切りは明確でしたが、2次対象は委託契約等による報酬であることや国民健康保険加入者であることなどが条件となっており、それがフリーランスの実態を表しているのかというと疑問が残ります。

この2次対象の境界線上には、フリーランスなのかそうじゃないのか、よくわからない人がたくさん居ます。この線引き自体も難しいのですが、何より困難なのは、ぎりぎり境界線の外側になってしまった人が「自分も対象に入れろ」と声をあげてしまうという点です。

この持続化給付金制度を創設するよりはるか前に「フリーランス」という言葉の定義がしっかり存在していれば、こんな難しさはありませんでした。しかしそれが無い以上、100万円をもらえるかもらえないかという極めて大きな線引きを、中小企業庁はこのタイミングでしなければいけなくなりました。

「線引きなどせずに、全員もらえるようにすればいいじゃないか」という意見もあります。しかしそれをしてしまうとどうなるでしょうか。上の図で、フリーランスとの境界のすぐ外側にはパートやアルバイトの人達が居ます。

「フリーランスが全員対象」ということはつまり、「フリーランスと名乗りさえすればパートやアルバイトでもフリーランスになる」ということを意味します。線引きをしないということは、そういうことなのです。

そして仮にパートやアルバイトの人も「私はフリーランスです」と言いさえすれば給付の対象になったとしたらどうでしょう。次はいよいよサラリーマンの人が不満を口にするはずです。そもそも「サラリーマン」にもいろいろな形があって、どういう契約か、どういう保険が適用されるか、などがさまざまです。

その「さまざま」を線引きしないと言ったんだから、サラリーマンもある意味フリーランスだよな。フリーランスサラリーマンの爆誕である。

こうして、対象者は無限に拡大し続け、いよいよ最後には全ての国民が対象になってしまいます。

いや、実はそれこそが正しい姿だったのでは? 国民全員に100万円。もう線引きも何も無い。生活に困った人に対する給付なんだから、全員対象でいいじゃないか。実際、特別定額給付金10万円は国民全員に配られてるわけだし。

事業だの持続化だの言わずに、最初から国民全員に100万円でよかったんだ。究極的には、そういう主張もアリだと思います。

しかし、何か1つ忘れては居ないでしょうか。

法人

これは、自称フリーランスをも含んだ未来の持続化給付金対象者の図。もうほとんどの人が対象となっていますが、この図の中でおかしいモノが1つ含まれていますよね。そう、法人です。

持続化給付金を「人に対する給付」と位置付け、生活が困った人全てを対象にするべく拡大を続けた結果、ここには「人でないモノ」が含まれてしまうことになりました。いや、最初から含まれていました。それが法人です。

「人に対する給付」という考え方のもとでは、法人に給付されることがおかしいんです。じゃあ法人を除外しますか? 法人に給付済みの給付金を返還させますか? って話になってきます。

持続化給付金の原点に戻る

もちろんそんな未来はやってこないでしょうし、法人を除外するなんてことはあり得ません。

しかし、「持続化給付金は全ての生活が困った人への給付だ。線引きをするのはおかしい」という思想の行く末には、法人のほうがむしろ対象外になってしまう異常な世界があるのです。

どうしてこんなことになるのか。それは、持続化給付金の本来の趣旨を忘れ、困った人を助ける、あなたも助ける、誰でも助ける、と無尽蔵にでたらめに制度を歪めたからに他なりません。

困った人を助けるのは大切なことですが、制度をでたらめにして崩壊させてはいけません。

持続化給付金の原点はあくまで、「事業者に対して事業の継続を支える」というもの。その芯の部分を歪めるのではなく、別の制度・別の方法で困った人全てが助かれば、なにもかもが丸く収まるのではないかと思います。

今もまだ(執筆2020年7月19日現在)、給付対象の微妙な拡大や見直しを叫ぶ声があります。その全てが間違ってるわけではありません。その全てをやめろと言ってるわけでもありません。でも、持続化給付金の本来の趣旨を忘れて制度の改善を要求するのは、少し筋が違うように思います。

なにより、筋の違う要求は、中小企業庁には通りにくいと思います。全ての人が救われて欲しいと思えばこそ、別の筋から改善策を提案したほうが近道になるのではないでしょうか。

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