消費税のおはなし(7)/消費税が払えない

11月 15, 2019

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消費税が払えない

益税が議論されるときに必ず話題にのぼるのが、「免税事業者から課税事業者になった場合、小規模な事業者は赤字でも消費税を納めないといけない。中小企業いじめだ!」という話です。

これまでずっと説明してきた通り、事業者は消費税に関しては負担ゼロです。預けた消費税は返してもらい、預かった消費税は納税し、プラスマイナスゼロで徴収と納税を代行しているだけです。だから、「赤字なのに消費税を納めないといけない」なんてことはありえないのです。

その一方で、確かに小規模な事業者にとって、消費税の納税が重くのしかかってトドメの一撃になることが多いのも事実です。どういうことなのか、お金の流れを見てみましょう。

この個人商店は年間売上1000万円。そのうち仕入が税込660万円で、従業員への給与が300万円。残りの140万円がこの店の利益(=事業主自身の利益=生活費)です。ちなみに給与支払いは消費税のかからない不課税取引なので、仕入税額控除もありません。

実際には、この事業主は年末に140万円を受け取るわけではありません。毎日、その日の売上が貯まったレジからお金を取り出して自分の財布に入れ、自分の財布にある範囲のお金でぎりぎりの生活をした結果、生活費が140万円になったのでしょう。入ってくるお金でぎりぎり生活をしている事業主にありがちな風景です。

ぎりぎりなので、確定申告時に納めなければいけない消費税40万円のことはすっかり頭の中から消えています。言うなれば、消費者から預かった消費税を自分のために使い込んでいるのです。

そして、翌年2月~3月の確定申告の時期に、忘れていた消費税40万円の納付が現実のものとなります。

自分の財布はもうぎりぎり。その上、こんな多額の消費税を払えるわけがない! 中小企業をいじめるな! と、こうなるわけです。

預かったお金を使い込んでるだけ

しかし、血も涙も無い言い方をすれば、 いずれ払うべき消費者から預かった消費税を自分のために使い込んでいるだけです。借りたお金を使い込んだら、あとで困るのは当然です。

5000億円以上の消費税滞納が問題になっているといわれています。しかし、個人事業主が支払わなければならないお金は消費税の他にも、健康保険料、国民年金、水道代などいろいろあります。

生きていくためにぎりぎりの生活をしてお金が足りなくなって、どれをやむなく未納にして生きていくかという選択を迫られたときに、消費税滞納という選択をしたというだけです。ましてや、消費税は消費者から預かったお金です。お金にマジックで名前を書いて保管しておくわけにもいかないので、手元にあるお金が何のお金だったのかを忘れてしまっているのです。

消費税の滞納が問題になっているとすれば、それは額の多い少ないではなく、「後払い年払いでそこそこの多額を一気に納付する」という納付スタイルこそが原因なのではないでしょうか。

血も涙も無い言い方をしましたが、それはあくまでお金の流れを正確に言い表した結果です。僕自身、免税事業者から課税事業者に切り替わった初年度は、高額の消費税の納税に目ん玉が飛び出ました。そのせいで毎日そうめんしか食えない日が続きました(うそ)。

ぎりぎりの利益で商売している小さな事業者は、ほんとにこの消費税納税がトドメの一撃になりうるのです。

別の方法で中小企業が守られれば

確かに、利益の少ない小さな個人事業主にはもう少し税の負担を軽くしてもらいたい気持ちもあります。「そんなの自己責任だ、儲からないお前が悪い」というのはあまりにも酷です。中小企業がこの日本という国を支えている現実からみても、もっと中小企業の負担を軽くすることが日本の発展のためになるはずです。……という意見もあります。

それについて僕がイエスとかノーとか政治的な意見を挟むことは避けますが、とにかくそういう意見も意見の一つとして尊重すべきだとは思います。

仮にその観点からみたとしても、さっきの図で預かった消費税を使い込んでいるという事実は変わりません。もし「中小企業を救うべき」と考えるなら、消費税どうこうよりも、中小企業への所得税や住民税の負担を減らすべきとか、特別な給付金を渡すべきとか、別の切り口を論拠にするのが正しいあり方ではないでしょうか。

政治的意見というのは、いろんな意見を出し合って大いに議論すべきだとは思いますが、印象操作や間違えやすい数字のマジックを使うというのは、あまり賛成できません。

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