性風俗関連特殊営業が持続化給付金の対象から除外される理由

コロナウィルスの影響により売上が減少した事業者に対して国が給付金を支給する制度として、持続化給付金(対象年月:2020年1月~12月)、一時支援金(対象年月:2021年1月~3月)があります。

これらの給付金の対象者に、性風俗関連特殊営業を行う事業者は含まれていません。その理由について見ていきたいと思います。

スポンサーリンク

性風俗関連特殊営業とは

昭和22年(1948年)に、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、いわゆる風営法によって、性風俗関連特殊営業というものが定められました。以下のような営業を行う事業者は、各都道府県の公安委員会に届出をして営業しなければいけません。

・店舗型性風俗特殊営業
 1号営業 – ソープランド
 2号営業 – 店舗型性風俗店(ファッションヘルスなど)
 3号営業 – ストリップ劇場・ポルノ映画館など
 4号営業 – ラブホテル
 5号営業 – アダルトショップなど
 6号営業 – 政令で定める(2011年1月1日から出会い喫茶が指定された)
・無店舗型性風俗特殊営業
 1号営業 – 派遣型ファッションヘルス
 2号営業 – アダルトビデオなど通信販売営業
・映像送信型性風俗特殊営業(インターネットを利用した画像・映像配信など、性風俗店を紹介する風俗情報のウェブサイトも、これに含まれる場合がある)
・店舗型電話異性紹介営業(テレフォンクラブなど)
・無店舗型電話異性紹介営業(携帯電話を利用したテレフォンクラブなど)

Wikipedia:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律

公安委員会にこの届出をして営業している事業者が、性風俗関連特殊営業を行う事業者ということになります。

給付金の対象から除外される人

持続化給付金・一時給付金の規程では、性風俗関連特殊営業を行う事業者は給付の対象ではないとされています。

一方で、そのような店舗で働くキャストの女性(あるいは男性)は給付の対象になります。そのキャストの人が芸能人などと同じように個人で個人事業主という形態を取っていれば、給付の対象となり得ます。キャストは、店舗が公安委員会に届出云々とは関係無く、自分の能力で所得を得る個人事業主(フリーランス)だからです。

補足しておくと、性風俗関連特殊営業の裏方で働くスタッフ(電話番・受付・清掃員など)は、店舗に雇用されている給与所得者なので、そもそも事業者向けの給付の対象ではありません。このようなスタッフは、事業者ではなく被雇用者として、持続化給付金等以外の労働者向けの支援を受ける権利をもともと持っています。

キャストは給付対象

※キャストであっても、業務委託契約ではなく雇用契約として給与所得を得ている場合は、給付対象外です。

性風俗関連特殊営業が給付金の対象から除外される理由

これについては、2020年6月5日の国会で安倍総理(当時)がこのように答弁しています。

御指摘の「持続化給付金」について、「性風俗関連特殊営業を行う事業者」は、これまで、基本的に、災害対応も含めた公的な金融支援及び国の補助制度の対象外としてきたことを踏まえ、その申請開始に当たって給付の対象外としたところである。

第201回国会 答弁書

つまり、今までも国の補助制度は性風俗関連特殊営業を行う事業者を対象外としてきたので、今回の持続化給付金でもそれを踏襲して対象外とする、ということです。

では、なぜ今まで対象外とされてきたかというと、この答弁では述べられていませんが、「性風俗関連特殊営業を国の補助制度の対象とするのは、国民の理解が得られない」というのが、常々理由として語られています。

このような店舗を営業する事業者の中には、いわゆる反社会的勢力と繋がっている者が残念ながら多いです。もちろんクリーンな事業者も居ますが、全体としては「性風俗=反社」というイメージが拭えないのは確かなことでしょう。

そして何より、性風俗はいかがわしい。けしからん! 金銭のやりとりをして男と女がナニのやりとりをするなんて、きゃーっ、いやらしいっ!

…と国民は思っているに違いない。国民の理解が得られていないに違いない。だからこんな事業者は補助制度の対象外としてしまおう。風営法は70年以上前に制定された法律だけど、令和の世になってもダメなものはダメなんだ。対象外だ対象外。キーーッ!

「国民の理解が得られない」について僕が思うこと

国の言い分としては、要するに「国民の理解が得られない」ということです。

しかしどうでしょう。本当に我々国民は、性風俗関連特殊営業を行う事業者が補助金を得ることについて「理解を得ていない」のでしょうか?

僕はそうは思いません。性風俗というものは確実に僕たちの生活に根付いています。そこから目を背けようとせずにしっかりと現実を見れば、誰しもお世話になってる有益な事業じゃないですか。70年前ならともかく、2021年にもなって「きゃーっ、エッチ(>_<)」とか言ってるのは、時代錯誤も甚だしいと思いますですよ、僕は。

さらに言えば、キャストが客にアレをナニする営業形態だけでなく、アダルトショップ経営やラブホテル経営でさえも対象外とされている点があまりにもおかしいです。それらの店舗があることによって、いろいろアレがアレして、潤滑な子孫繁栄活動を促進し、少子化対策にもなるじゃないですか。そう、潤滑なんですよ。とてもよく滑るという意味でね(何が?)。

一方で、懸念点もあります。

性風俗関連特殊営業を行う事業者が反社会的勢力と繋がりがあるケースが多いという点は、見過ごせない事実です。でも、あくまで「そういう例が多い」というだけなので、そのあたりは法律や審査基準を整備して、なんとかうまくできないものですかね。性風俗であってもなくても反社はどこにでも潜んでいますし、性風俗だけを頭ごなしに除外するというのはちょっと筋が通らない気がします。

さらに言えば、怪しく胡散臭い事業者というのは、そもそも公安委員会に性風俗関連特殊営業を行う届出を出しておらず、裏営業をしていたりします。届出を出していなければ普通の事業者とみなされ、給付金の対象となってしまいます。逆に、真面目に届出を出したクリーンな事業者のほうが給付金の対象外となってしまい、めちゃくちゃ不公平な話になってしまいます。

キャストと納税

性風俗除外賛成派の意見として、このようなものがあります。

キャストってどうせ確定申告もしてないし、税金も払ってないよね。そんな人に給付金なんて出さなくていいから、このまま対象除外でいいよ

こういう意見をよく耳にするのですが、これは2つの点で間違っています。

最初に説明した通り、キャストはそもそも給付金の対象者です。対象外となっているのはあくまで店舗経営者のほうなので、その点でまず間違っています。

そして、確定申告をしていないかどうかは、個々のキャストの問題です。仮に店舗経営者が胡散臭い事業者で脱税をしていたとしても、個々のキャストは独立した個人事業主なので、店舗の怪しさとは関係ありません。

まぁ、「かくていしんこく? わかんなーい」とか言って無申告のまま放置しているキャストも居るかもしれませんが、ちゃんと確定申告をしているキャストも居るので、あくまで個別の問題ですね。

慣習を変えることはできなかったのか

2020年5月に受付が開始された持続化給付金。この制度は突貫工事のように制定されて施行されたので、「補助制度は性風俗除外」という慣習を変えるかどうかという議論にまで手が回らなかったかもしれません。

でも、過去に例が無いほどの大きな経済打撃を与えるコロナウィルスという脅威に対しては、「今までもそうだったから」という慣習を見直すべきだったんじゃないでしょうか。

百歩譲って持続化給付金は仕方が無かったとしても、2021年3月から申請受付が開始された一時支援金については、性風俗への補助制度に関してしっかり議論を深めるべきだったと思います。

国会で先の質問と答弁があったのが2020年6月。まさに性風俗への補助制度についてあらためて議論をするべく一石が投じられたのに、そこから9ヶ月、国は一体何をしていたのでしょうか。古い慣習を変える絶好の機会だったはずなのに。

慣習を変えるというのは簡単なことではありません。これまで行ってきた別の補助制度とうまく整合が取れていなければ、過去の補助制度の対象者/対象除外者の不満を誘発することにもなります。でも、それを調整するだけの時間は十分にあったはずです。

性風俗関連特殊営業と補助制度の問題については、今も声をあげ続ける当事者の方々がいらっしゃいます。彼ら・彼女らの声がいつか国に届きますよう願っています。

スポンサーリンク