オンラインサロンに蔓延る無登録の投資助言に注意

日本の法律では、金融商品取引法により、国から許可を受けた事業者(法人でも個人事業主でも可)でなければ、投資助言業務を行うことができません。

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助言やアドバイスにも許可が必要な業務

例えば車を運転するには運転免許が必要ですし、危険物を取り扱うには危険物取扱者という国家資格が必要です。これらは具体的に「何か行動をする」ことに対する許可なのでわかりやすいですが、助言やアドバイスをするだけでも許可が必要な業務があります。

代表的なのは弁護士業務と税理士業務です。これらの業務は法治国家としての根幹をなすものなので、スキルの低い業者や虚偽の助言を行う業者が市場に蔓延しないよう、一定の国家試験に合格した者だけがその業務を独占できるようにし、その業務のクォリティを担保しています。税理士の独占業務については、以下の記事にもまとめています。

金融商品(株・FX・先物取引・仮想通貨など)への投資に関する投資助言業務も、金融商品取引法の定めるところにより、登録申請が必要となっています。

金融商品取引法

金融商品取引法第29条に、投資助言業務に関する規定があります。

(登録)
第二十九条 金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができない。
(登録の申請)
第二十九条の二 前条の登録を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した登録申請書を内閣総理大臣に提出しなければならない。
(中略)
 第二条第二項の規定により有価証券と(中略)を業として行う場合にあつては、その旨
 暗号資産又は金融指標(中略)を業として行う場合にあつては、その旨

金融商品取引法

要するに、金融商品への投資に関する投資助言を業務として行う場合は登録申請が必要ですよ、ということです。詳しくは、関東財務局のホームページなどに、登録に係るQ&Aとして記載されています。

ここでいう「投資助言業務」とは、有償で具体的な銘柄や投資のタイミング等のアドバイスを行うことを指します。一般論として投資の知識を教えるだけなら、投資助言にはあたりません。また、無償でのアドバイスや、新聞・雑誌・書籍等(一般の売店等に陳列され、誰でも内容を見てから購入の判断ができるもの)に記載する形でのアドバイスも投資助言にはあたりません。

また、この登録申請には、特別な資格や試験は必要ありません。投資に関する十分な知識があると認められれば、誰でも投資助言業務を行うことが許可されます。

仮想通貨やビットコインなどのいわゆる暗号資産に関しては、2020年5月1日に施行された改正金融商品取引法によって、金融商品とみなされるようになりました。従って、暗号資産に関する投資助言業務に関しても、登録申請が必要になります。

もし無登録で投資助言業務を行った場合、以下の罰則規定の定めるところにより、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処せられるおそれがあります。

第百九十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(中略)
十の四 第二十九条の規定に違反して内閣総理大臣の登録を受けないで金融商品取引業を行つた者

金融商品取引法

オンラインサロンに蔓延る投資助言

オンラインサロンというのは、クローズドな会員制の有料コミュニティです。有用でクリーンなオンラインサロンもありますが、インフルエンサーを騙って情報弱者から金を巻き上げる信者ビジネスのような胡散臭いオンラインサロンが多いのも事実です。

胡散臭い虚業師のオンラインサロンでは、「わたしの言う通りにすれば、わたしのように稼げるようになりますよ」と甘い言葉を吐き、サロンの月額費や、さらに高額の特別オプションの情報商材を売りつけたりしてきます。

そんな虚業師サロンにおいて、投資助言は最高の話のネタです。「仮想通貨を買いなさい。何百倍にもなってお金が返ってきますよ。あなたも、わたしのように金持ちになれますよ!」と、サロンの教祖が信者達に投資を勧めるわけです。

「わたしのように金持ち」とか言ってる教祖が実は借金まみれで破産寸前なのが噴飯物ですが、まぁそれはさておき、そうやって信者達に「仮想通貨を買いなさい」と勧めるわけです。有料会員制のオンラインサロンで。

そう、これはまさに、金融商品取引法に抵触するおそれがあります。実際のところ、オンラインサロンはクローズドなので、中で実際に投資助言業務にあたる行為が行われていたかどうかは不明です。また、もしかしたら正式に登録申請を行った上で投資助言業務を行っているのかもしれません(とても登録してるとは思えないですが…)。

金融庁の対応

このような事態に対し、金融庁は2020年6月にtwitterで警告と注意喚起を行いました。

このツイートは実は、ツイートの翌日に行われた参議院財務金融委員会の質疑に連動したものになっています。事前に質問通告があったので、質疑に先立って金融庁がツイートしたものと思われます。(オンラインサロンでの無登録業者による投資助言に関する質疑は、動画の5分19秒あたりから。)

この動画でも言われてる通り、日本の警察はおとり捜査ができない以上、なかなか無登録業者を摘発するのは困難なようです。しかし、このように国会で取り上げられたことは一歩前進と言えるでしょう。

仮想通貨TITANの歴史的大暴落

2021年6月16日、仮想通貨のTITANがその価値を35億分の1に暴落させるという大事件が起きました。

最大では42億分の1とも言われていますが、とにかく、30~40億円のお金が一晩で1円になってしまうという歴史的大暴落です。

このような暴落が起きた理由とメカニズムについては割愛しますが、簡単に言うと、もともと何の価値も無い仮想通貨を「これすごいぞ、価値があるぞ!」と全世界に吹聴し、なんだかよくわからないうちに価値がどんどん上がり、最後には「うわ、これ、ただのゴミだった!」と全世界が気付いて崩壊したという構図です。

まともな投資家であれば、最初から価値が怪しかったTITANには手を出しません。あるいは、怪しいのをわかっていて、最後に大暴落することも見越した上で、ギリギリまで利益を得ていた狡猾な投資家も居たかもしれません。

問題なのは、いくつかのオンラインサロンの主催者が、この仮想通貨TITANを「これすごいぞ、価値があるぞ!」と発言して、サロンメンバーに投資を促していたという点です。

彼らは投資の素人です。オンラインサロンの主催者とはいえ、所詮はメッキで塗り固めた偽りの虚業師。信者達には「自分は投資もできる」とアピールしていましたが、冷静に見ればド素人であることは明らかです。そして案の定、大暴落を予測できずにTITANと共に崩壊していきました。

実際のところ、彼らのこの行為が金融商品取引法に抵触していたかどうかは、慎重に見極めなければいけません。

確かに僕自身も、数名のオンラインサロン主催者が「TITANは錬金術!」とツイートしているのを目撃しました。しかし、先で説明した通り、twitterでの無償のアドバイスは投資助言業務にはあたりません。

有料のサロン内でTITANについてどのような内容をどこまで語っていたかは不明なので、サロン内部を窺い知ることができない以上、彼らが投資助言業務を行っていたとは断言できません。

大事なのは、信用

いわゆる虚業師のサロン主催者が無登録で投資助言業務を行っていようがいまいが、おそらく彼らは「いいや、わたしは法律を犯していない。なぜなら云々」と反論することでしょう。

虚業師の活動内容はそのほとんどが、グレーです。その点を指摘されるたびに彼らは「いや、大丈夫」と、のらりくらりと弁解します。

僕は、彼らがそのような詭弁ともとれる弁解をするたびに思います。大事なのはそこじゃない、と。

法解釈というのは難しいものです。ある行為が法によって裁かれるかどうかは、専門家でも意見が分かれることがしばしばです。しかし、大事なのはそこではありません。

法に抵触していないことをどれだけ自説で述べても、そしてさらに無罪放免になったとしても、「あいつはブラック寄りのグレーだ」という印象は決して拭えません。マイナスの印象が一度付いてしまえば、信用は失墜します。信用を失えばビジネスチャンスを失い、人間関係をも失います。

では、どこまでならグレーな行為に手を染めても、信用を失わずに済むか。

そんなことは誰も教えてくれません。自分の培った感性で判断するしかないのです。その点、司法が「それはOK、それはダメ」と教えてくれるのだとすれば、むしろありがたいくらいです。子供の頃はどんな問題にも先生が必ずマルかバツかを付けてくれましたが、大人の社会には先生なんて居ないのです。

詭弁を重ねて「どうだ、わたしの言ってることのほうが正しいだろう?」と強弁することは、まさに、先生からのマルかバツかを待っている行為だと言えます。しかし世間は、バツなんて与えてくれません。「こいつダメだ」と皆が思えば、バツすら与えずに、ただその人のもとから去るのみです。

採点待ち人間にしかなれなかった虚業師の彼らを、僕はとても哀れに思います。

オンラインサロンと投資助言の今後

財務金融委員会でオンラインサロンでの無登録業者による投資助言の質疑が行われたのが2020年6月4日。それからちょうどほぼ1年後の2021年6月16日、仮想通貨TITANの大暴落が起きました。

この1年間、財務金融委員会の質疑で約束されたような「取り締まりの強化」がしっかりと行われてきたかというと、疑問が残ります。

ですがこのTITANの大暴落は、被害者は少ないかもしれませんが、歴史的な大事件です。この事件をきっかけとし、オンラインサロンに蔓延る無登録業者による投資助言業務の取り締まりをより一層強化していただきたいと思います。

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Posted by 4研DDT