持続化給付金の不正受給について
コロナウィルス等の影響により売上が減少した事業者に対し、法人の場合は200万円、個人事業者の場合は100万円の給付金が支給されるという制度。それが持続化給付金です。
2020年5月1日から申請受付が始まったこの持続化給付金制度ですが、7月22日に山梨県警が、この持続化給付金100万円を搾取した容疑で19歳大学生を逮捕しました。その初の逮捕事例以降も、多くの不正受給による逮捕者が出ています。
持続化給付金の申請規程
中小企業庁は、この持続化給付金について以下のように趣旨・目的、および給付対象者を規程しています。
第1章 趣旨・目的
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴うインバウンドの急減や営業自粛等により特に大きな影響を受けている、中堅企業、中小企業その他の法人等及びフリーランスを含む個人事業者(以下「個人事業者等」という。)のうち、給付対象者に対して、事業の継続を支え、再起の糧としていただくため、事業全般に広く使える持続化給付金(以下「給付金」という。)を給付するものとする。(中略)
中小企業庁:持続化給付金申請規程
第3章 給付対象者
給付金の給付対象者は、個人事業者のうち、次に掲げる全ての要件を満たす者とする。ただし、給付金の給付は同一の申請者に対して一度に限るものとする。
(1) 2019 年以前から事業により事業収入(売上)を得ており、今後も事業を継続する意思があること
(2) 2020 年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月(以下「対象月」という。)が存在すること。
要するに、コロナのせいで収入が減った事業者が対象になります。
さて、どういう場合に持続化給付金の不正受給になるか(なるかもしれないか)についてですが、大きく分けて2つのケースが考えられます。
- 虚偽の申請によるもの
- コロナの影響による収入減とはいえないもの
この2つについて、もう少し詳しくみていきます。
(1)虚偽の申請によるもの
虚偽の申請とはつまり、持続化給付金申請時に提出する確定申告書類等に虚偽の記載がある場合です。売上金額にウソを書いた場合や、そもそも事業などしていないのに事業収入をでっちあげた場合がこれにあたります。
虚偽の申請は完全に悪意を持って行われたものであり、弁解の余地はありません。発覚した場合は、全額返還+年率3%の延滞金+20%のペナルティを支払わなければなりません。またこのような不正受給者は氏名が公表され、悪質な場合は逮捕されることもありえます。
山梨県警が逮捕した19歳の大学生をはじめ、現在(※執筆2020年9月13日当時)逮捕されている他の事例も、この虚偽申請によるものです。
では、一体どのような人がこういう不正受給に手を染めてしまうのでしょうか。それには3つのパターンがあります。
1つ目は、突発的な単独犯行。持続化給付金の申請方法がゆるゆるなのを利用して、「これ、適当に確定申告書をでっちあげればイケるんじゃね?」と思った人がヤッちゃうパターンです。
2つ目は、計画的な組織犯行。同じく申請方法がゆるゆるなのを利用して、さらに大量の事業者の存在を(名義貸しなどによって)でっちあげて銀行口座を複数作り、1人で10件も20件も不正受給するというパターンです。
そして3つ目が一番問題なのですが、悪徳業者による犯行教唆によるもの。「この方法で誰でも100万円が受け取れますよ」と甘い言葉で何も知らぬ学生や主婦などを騙し、不正受給をさせて手数料を受け取るというパターンです。
「こんなすごい制度があるなんて! 国から100万円を受け取れるんだから、手数料20万円くらい払ってもいいや」
そんな気持ちで不正受給に手を染めてしまうと、後で手痛いしっぺ返しを食らいます。もしバレたら当然100万円(+ペナルティ20%超)は国に返さないといけません。しかも、悪徳業者に払った手数料は返ってきません。さらに名前は公表されるので社会的信用を失い、最悪の場合、逮捕に至ることもあります。
後悔しても後の祭り。怪しい業者の怪しい勧誘には決して乗らないように気を付けましょう。狡猾な業者だと本物の税理士を味方に付けている場合もありますが、その税理士もグルです。
何事もそうですが、100万円もの大金が動く制度や商売の話があったときは、必ず複数の情報源から情報を得るようにしましょう。そして、常日頃から法律に関する知識を取り入れ、遵法精神を守って生きていきましょう。
「悪徳業者に騙されたから俺は悪くない」は通りません。悪徳業者ももちろん逮捕されますが、ウマい話に乗ってしまって不正受給をしたほうも逮捕されてしまうんです。逮捕されてからでは遅いですぞ。
ちなみに8月26日に愛知県警に逮捕された悪徳業者の3人組は、400人以上の学生や無職の若者に不正受給の教唆や代行を行い、不正受給額は4億円以上にのぼるそうです。悪徳業者はtwitterなどのSNSを使ってそれっぽい宣伝をしてきます。twitterの怪しいアカウントは大体ソレなので、決して近付かないようにしましょう。
(2)コロナの影響による収入減とはいえないもの
もう一度先ほどの給付対象者の記載を見てみましょう。
(1) 2019 年以前から事業により事業収入(売上)を得ており、今後も事業を継続する意思があること
中小企業庁:持続化給付金申請規程
(2) 2020 年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月(以下「対象月」という。)が存在すること。
持続化給付金は言うまでもなく、コロナウィルスの影響により事業の継続が困難な事業者を救うために創設された制度です。しかし、その申請を行うときに、収入減少の原因がコロナの影響によるものであるかどうかが必要条件なのか、ということについてはいまだに見解が分かれています。
まずこの給付対象者の文言ですが、「新型コロナウィルス感染症拡大の影響等により」となっています。この「等」について、今も解釈は定まっていません。
「コロナウィルスの影響や、その他の影響」と解釈すれば、それはつまり、収入減少の原因は何でもいいということになります。当初は、この解釈をする識者が多く居ました。
というのも、そもそも持続化給付金は、給付のための条件がザルなんです。本来なら対面等で収入減少の理由を述べ、専門家の判断によって1件1件丁寧に審査するのが筋です。しかし、数百万件の申請に対してそのような悠長な審査を行うことはできません。
条件がザルなのには、国民に給付金の大盤振る舞いをしたいという政治的な理由もあったかもしれません。あまり細かく対象者を選別せず、事業者なら大体100万円か200万円。それでいいじゃない。今の政府ってすごいでしょ、これからも応援してね、的な。
このようなザル制度なので、コロナの影響であるかどうかをうるさく言ってくることはないだろう、そもそも、コロナの影響かどうかを客観的に証明することなんてできないしね、というわけです。
実際、月の売上が安定している商売ならまだしも、売上の変動が激しい商売だと収入減の理由なんて証明できません。逆に、コロナで客足が減ったけども、別の理由でそれ以上に売上が増えるなんてこともあります。
究極的に言えば、コロナウィルスの影響を受けていない商売というのはほとんどありません。消費者向けの店舗経営の場合は「客が減った、臨時休業した」などの直接的な影響があってハッキリしていますが、そのような例ばかりではありません。
例えばBtoBの場合は、「顧客企業が減収になったせいで予算が減ってるっぽい。その分、なんとなくウチの商品を買ってくれる量が減ってる気がする」というような間接的な影響を受けるので、確かに減収にはなっているけども、それを証明する手段が無いということがよくあります。
外出を伴わないネットビジネス、特にその最たる形であるyoutuberはどうでしょうか。youtuberは広告収入によって利益を得ています。その広告費は広告主の企業からGoogle社を介して支払われるわけですが、噂によればこのコロナの時期では、広告主が広告費の単価を下げていたと言われています。これも証明する手段は無いですが、間接的なコロナの影響と言えます。
これらの事情を総合すると、持続化給付金の受給に関しては、コロナの影響であることを客観的に証明する必要は無い、と解釈するのが自然だと思います。
日本郵政グループ不正受給問題
初の逮捕者が出た7月22日から時間を遡り、6月12日。
日本郵政グループの社員120名が、コロナとは全く無関係な収入減を理由に持続化給付金の申請を行い、受給していたことが明らかになりました。
「社員なのに事業者向けの持続化給付金?」と思われるかもしれませんが、日本郵政グループの営業職の社員は、通常業務の対価を給与としてもらい、それ以外の保険販売については日本郵政グループからの委託という形を取っており、給与収入と(委託)事業収入のダブルワークという形になっています。このやり方自体もどうかと思うところはありますが、本題とは関係無いのでとりあえずよしとしておきます。
問題なのは、その保険販売(=個々の社員の事業収入の部分)が減収となった理由。昨年の2019年にこの保険販売について、顧客に保険料の二重払いをさせたり、不必要な新契約を結ばせるという不正販売が横行してることが明らかになりました。
それを受け、日本郵政グループは保険販売について営業自粛という判断をしました。その結果、個々の社員の事業収入の部分も自粛により収入が無くなりました。
これはコロナとは全く無関係な収入減です。しかも、不正販売を自粛した結果による収入減という、「悪いことしたらダメよ」という当然の措置です。にもかかわらず彼らは、持続化給付金の申請を行い、受給してしまいました。
倫理的に見て、このような持続化給付金の受給は到底認められるものではありません。しかし、持続化給付金の給付規程の文言が「コロナの影響であることは問わない」と解釈する余地もあるからなのか、以下のような対応になりました。
まず日本郵政グループは、該当社員に対して、申請の取り下げや給付金の返還を促しました。また、他の社員に対しても、持続化給付金の申請を行ったかどうかを聞き取り調査しました。
政府側は、梶山経済産業大臣が会見で、刑事告発も含めて厳正に対処すると述べました。
僕はこれらの対応を、以下のように読み取りました。
日本郵政グループはこの倫理的に許されざる社員の行為に対して、厳正に是正していく責任がある。しかし6月当初のこの時点では、これが不正受給にあたるのかどうかの解釈がはっきりしておらず、法的にはお咎めなしになる可能性もある。なので、とにかく返還をするよう促した。
梶山経産大臣は「刑事告発」という言葉を使っているが、僕に言わせれば、梶山経産大臣は持続化給付金のことをあまりわかってない。持続化給付金の受給条件に「コロナの影響」が必須であるかどうかを、規程の文言、その解釈、実務上の問題点なども含めて詳しく精査して現状を理解しているとは思えない。単に「不正はダメ」という当たり前のことを言ったに過ぎないのではないか、と。
僕の知る限り、この「刑事告発も含めて厳正に対処」というのがどうなったか、という情報は今のところ見つかっていません。もしご存じの方がいらっしゃいましたら、情報をお寄せいただければ幸いです。
中小企業庁の不正防止告知
8月25日、中小企業庁は「持続化給付金の不正受給は犯罪です」と題して、以下のような告知をホームページやSNS等で行いました。
中小企業庁
途中に書かれている不正の条件について、
- 事業を実施してないのにもかかわらず申請する
- 各月の売上を偽って申請する
については、本記事でも述べた通り虚偽の申請にあたり、完全な不正です。しかし3つ目の
- 売上減少の理由が新型コロナウイルスの影響によらないのに申請する
については、少し問題視する声があがりました。
というのも、申請規程には「影響等」と「等」の文字があるのに対し、この告知では「等」の文字がありません。「等」の意味をどう読み取るかにもよりますが、解釈によっては「等」の有る無しで大きく意味が変わってきます。後出しの告知で、そのように解釈が変わる可能性のある変更をしてもよいのか? という点を疑問視する声がありました。
しかし、少なくとも中小企業庁は、これまで解釈があやふやだった部分に対して、「『等』はアレだよ、言葉のアヤだよ。持続化給付金を受給するには、コロナの影響で減収になっているということが必須条件だからね」とハッキリ言ってきたということになります。
「コロナの影響」の結論
現在のところ(※執筆2020年9月13日)、虚偽の申請による逮捕者は居ても、コロナの影響ではないからという理由で不正受給とみなされたケースはまだありません。
したがって、「コロナの影響」という条件が必須であるかどうかは、具体的な事例を見るまではまだなんとも言えません。
その上で、僕なりに、こう解釈しているというのを書き記します。
持続化給付金の受給の条件である「コロナの影響(等)による収入減」とは、「収入減の理由を全く問わない」という意味ではない。
申請時に収入減の理由を証明する必要は無いが、後日の調査で収入減の理由を求められたときは、客観的に納得しうる根拠を述べる必要がある。
その「根拠」は、倫理的に許されざるようなものを除けば、大体は許容される。例えば「間接的に受注案件数が減った気がする」「自分の体調の安全を最優先するために営業を自粛した」というようなものでもよい。
わざと仕事を減らして収入減の状態にした場合はどうなるか。これに関しても、本当にわざとなのかどうなのかは、自分の心の中にしか答えはありません。コロナという不安な状態が続いたために(特に金銭的に被害は無くても)精神的に仕事をする気が起きなかった、ということもあるかもしれません。
それを「わざと」と呼ぶべきかどうかは他の誰にもわかりません。倫理的に許容できる内容の根拠を述べることができれば、そのような場合でも不正にはあたらないだろう、というのが僕の解釈です。
最後に。
これまで書いたことは、あくまで僕の1つの解釈です。政府の発表や他の人の意見も参考にしながら、慎重に判断するようにしてください。
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