不備ループへの怒りがもたらすもの

コロナウィルスの影響によって売上が減少した事業者に対し国が給付金を支援する制度として、2020年は持続化給付金、2021年は一時支援金および月次支援金、そして2022年は事業復活支援金というものがあります(ありました)。

事業者(法人、または個人事業主)がこれらの支援金を受けるために申請をするわけですが、その申請内容に不備があると判断され、何度再申請しても「あなたの申請には不備があります」と支援金事務局に言われて申請が通らないという現象を、不備ループと呼びます。

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SNSに溢れる不備ループへの怒り

SNSでは、不備ループを食らっている申請者達の怒りの声が溢れています。

不備ループ許さんアカウント @fubiyurusann

また不備ループ! わたしは売上が50%以上減っているから、支援金の対象のはずだ! 事務局はちゃんと審査をしているのか!? なんの不備も無いのに! もう我慢できない!

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自分は支援金が給付されるための要件を満たしているはずなのに、何度申請しても不備になる。その怒りをSNSで吐き出したい気持ちはよくわかります。

実際、何の不備も無いはずなのに、支援金事務局から「お前は本当に事業をやっているのか? 売上をごまかしていないか? もしかして、給付金詐欺じゃないのかっ!?」とでも言わんばかりの不備メールが届くことがあります。

不備となった場合、事務局は申請時の書類に加えてさらに、直近2年間の全ての領収書等・通帳の記録・帳簿などの提出を求めてくる場合があります。事務局がそこまで事細かに(支援金の申請に必要な書類以上の、大量の書類を)求めてくるということは、裏を返せば、事務局は申請者の事業の実態を疑っているということなのでしょう。

何も悪いことはしていないのに、疑われる。そんなことをされれば、そりゃぁ誰だって怒ります。

怒りの感情と脳医学

私は素人なので専門的なことはわかりませんが、怒りというのは動物(人間を含む)が生存するために必要な感情だそうです。

敵に襲われたとき、戦うにしろ逃げるにしろ、全力を出さなければいけません。このとき、怒りという感情が脳に作用し、アドレナリンだか何だかがうまいことアレして、肉体のパフォーマンスは瞬間的に大きく飛躍します。

生存本能

不備ループへの怒り。それを吐き出すことによって、「うがー! もう怒った! こうなったら、めっちゃ仕事しまくって見返してやる!」という気持ちが湧き、その興奮状態で仕事をすることで物事がプラスにはたらくこともあるかもしれません。

適度な怒りは、人間が生きるために必要なことなのでしょう。

怒り過ぎるとマイナスになる

しかし、誰しも経験したことがある通り、怒りの感情が大きくなりすぎると、人は冷静さを失います。正常な判断ができなくなると、間違った行動を起こしてしまう確率が高くなります。

不備ループ許さんアカウント @fubiyurusann

また不備ループ! わたしは売上が50%以上減っているから、支援金の対象のはずだ! 事務局はちゃんと審査をしているのか!? なんの不備も無いのに! もう我慢できない!

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たけのこ行政書士 @takenoko

@fubiyurusann さん、はじめまして。帳簿と通帳と領収書はちゃんと提出されているんですよね。もしよろしければDM頂けますでしょうか。何かアドバイスができるかもしれません。

不備ループ許さんアカウント @fubiyurusann

@takenoko
帳簿と通帳はちゃんと提出しています! それなのに不備って、おかしくないですか?? 聞くところによると、審査はバイトがしているそうです。帳簿も読めないバイトごときが!!

たけのこ行政書士 @takenoko

@fubiyurusann
えっと、帳簿と通帳は提出されているんですよね。領収書も提出されましたか?

不備ループ許さんアカウント @fubiyurusann

@takenoko
時給1300円のバイトですよ!? まともな審査をしているわけがありません!

怒りによって冷静さを失い、もはや会話が成立しなくなっています。たけのこ行政書士さんは、帳簿・通帳・領収書の3つをちゃんと提出しているかどうかを再確認しようとしています。しかし不備ループ許さんアカウントさんは、その問いにイエスともノーとも答えず、「帳簿・通帳の2つは提出している」としか答えていません。

この例はまだいいほうですが、場合によっては、手を差し伸べてくれているたけのこ行政書士さんのような人に逆ギレしたり、ブロックしたりすることもあります。冷静さを失い、まわりが全部敵に見えてしまっているのでしょう。

後日あらためて聞いてみると、実は領収書は提出していなかったようです。この方はいわゆる客商売の方で、領収書を発行する文化の無い業界の方でした。しっかりそのように答えていれば、売上を管理するための日計表などで代用するなどの手段を具体的に行政書士さんが教えてくれたと思います。しかしこの方は、アドバイスを得るチャンスを自らの怒りのせいで失ってしまいました

限度を超えた怒りは、目をくもらせます。目の前にあるはずの解決策すら見えてなくなってしまいます。これは人間である以上どうしようもありません。脳医学的なアレの副作用で、思考能力が著しく低下してしまうのです。

怒りの裏にある自己憐憫

怒りという感情は、「自分は不当な攻撃を受けている」という抑圧からくる場合が多いです。この不備ループの問題はまさに、「支援金事務局が不当に自分を不備にしている」という「不当な攻撃」からくるものでしょう。

これは一種の自己憐憫なのだと思います。

自分は不当な攻撃を受けている、自分はかわいそうだ、なんて哀れなんだ…。

誰しも、こんな気持ちになりたくてなってるわけじゃありません。相手が不当だからこそ、こんな気持ちにさせられているのです。

しかし人間の脳というのは不思議なもので、自己憐憫の情というのは脳に一種の快楽をもたらします。「不当な攻撃を受けるかわいそうな自分」という状態を、自分の意思に反して、脳はできるだけ維持しようとしてしまうのです。

そんなバカなことがあるか、と思うかもしれません。しかし、人間という生き物は本当に不思議な生き物です。生存のために必要なありとあらゆるメカニズムが脳の中に組み込まれています。「自分がかわいそうだ」という自己憐憫の段階で留めておくことで、もっと深刻な思考の闇に落ちてしまうことから防御するという、脳の自己防衛反応の一種なのでしょう。

自己憐憫からの脱出(克服): 自分が可哀想で泣く時は大チャンス!自己憐憫という感情を感じるあなたは温かい心の持ち主で優しい人!

自己憐憫の行き着く先

怒りの感情と同じで、自己憐憫の感情も、適度なモノであればそれは正常な脳のメカニズムだと思います。

しかし、自己憐憫が行き過ぎると、「自分はかわいそうだ」という状態を維持しようとするあまり、その状態から脱しようとする行動を避けてしまいます。もっと簡単に言えば、問題を解決したくなくなるのです。

「問題を解決したくない」なんて考える人は、居るはずありません。そう、頭の中では誰しもそう思っています。しかし、過度の自己憐憫に陥った人は、どれだけ「問題を解決したい」と思っていても、脳が勝手に問題解決の道筋を閉ざしてしまうのです。

目の前にあるはずの解決策が、視覚では認知できていても、脳の中枢に伝達されない。聴覚で聞いたはずの有益な情報が、思考の壁にブロックされて失われてしまう。何より恐ろしいのは、自分がその状態に陥っているということを自覚できないということ。自分では「不備ループを脱出したい」と思っているのに、脳がそれを許してくれない。

「私はこんな状態になんかなってない!」と思うかもしれません。でも、自分でも気づかないうちに、自己憐憫の感情は恐ろしいまでに増幅しているかもしれません。SNSは情報を広く集めるための有益なツールですが、時には、SNSが恐ろしい自己憐憫増幅器となっている場合もあります。

不備ループ許さんアカウント @fubiyurusann

また不備ループ! わたしは売上が50%以上減っているから、支援金の対象のはずだ! 事務局はちゃんと審査をしているのか!? なんの不備も無いのに! もう我慢できない!

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いもさく @imosaku

@fubiyurusann
私も今日不備が来ました。事務局許せません。

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国民の怒りを聞け @ikari

@fubiyurusann
コールセンターに連絡して、とにかく文句を言ってやろうと思います。みんなも電話をしまくるんだ! 回線をパンクさせてやろうぜwww

3

支援金専用垢 @shiennaka

@fubiyurusann
これはもう損害賠償を請求するべきですよ! 経済産業大臣も反省せよ!

8

カニじゃん @kanijan

@fubiyurusann
どうしてこんなに大量の不備ループが発生するのでしょうか。きっとこれは陰謀に違いありません。私たちのような小規模の事業者を廃業に追い込もうとしているのです。私も不備ループ中ですが、もう申請を取り下げようと思います。とても悔しいです

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怒り、悔しさ、悲しさ。感情の表現の仕方はいろいろですが、我も我もという感じでリプライが付き、多くのイイネが集まります。

このように集まってくる人に共通して言えるのは、具体的な解決方法を誰一人言っていないということです。私も怒っている、私はこんなに悔しい、私はこのような方法で怒りをぶつけようと思っている…。

一度冷静になって、距離を置いてこの状態を眺めてみればわかるはずです。こんなのは全く、問題の解決になんか向かっていない、と。

しかし、SNSは増幅器。同じ状態に陥ってる人は次から次に集まってきます。そうなるともう、自己憐憫の沼から抜け出すことはできません。

支援金事務局に文句を言い、支援金事務局を罵ることがもはや目的と化していませんか? それにある種の喜びを覚えていませんか? だとしたら、それは極めて危険な状態です。

SNSを利用して不備ループを抜け出すための方法

もし自分が不備ループに陥って、そのことをSNSでつぶやこうと考えた時は、自分の情報をオープンにするようにしてみてください。

何月何日に申請した、どういう事業を営んでいる、申請区分は○○区分である、提出した資料はこれである、このような不備通知の文言が来た、などなど。それらを、自分で勝手に解釈した言葉ではなく、可能な限りスクリーンショット(画面写真)でSNSに載せてみてください。

提出資料によっては、個人名や売上金額などの個人情報が記載しているものもあります。その場合は適切に黒塗りやモザイク加工をした上でSNSに載せてみてください。

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正確な情報があればもちろんアドバイスが集まりやすいわけですが、それよりもなによりも、他の怒りと自己憐憫に陥った人を寄せ付けないという効果があります。

自分の情報を出す。ただそれだけで、負のオーラを寄せ付けなくなり、自分も沼に落ちることが無くなり、脳にモヤがかかることなく、問題解決のための最善の行動を取ることができるようになります。

それでももし怒りを発散したいときがあれば、それこそ、そんなときに頼れるのが家族や友人です。多少の酒も良いでしょう。身近な人に(ネットではなく)リアルでグチを聞いてもらい、適度な怒りで気持ちを発散させてみてください。そうして気持ちを整理して、また冷静な気持ちでSNSに向き合ってみてください。

私のヒアリング談

最後に、私がSNS上で不備ループの方にヒアリングした所感を述べておきます。

「この人は何か申請を間違ってそうだ」と感じた方には申請内容を聞くようにしているのですが、半数くらいは怒りが頂点に達し過ぎていて、まともな回答が得られませんでした。

しかし、程よくクールダウンして回答してくださった方の申請内容を確認すると、申請区分を間違えていたり、売上と所得を取り違えていたり、軽微なケアレスミスがある方がほとんどでした。そしてそれらの方の多くは、適切に不備を修正して、無事に申請が通り、支援金が給付されました。

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