一人親方もフリーランスも、個人事業主の一種
僕がまだ会社勤めだった頃、仲のいい元請のアニキがこんなことを言っていました。「ゲンバに行くといろんな人が居てねぇ。一人親方のおじいちゃんとか。」
一人親方? なにそれ? 一人で親方て。かつて、身長223cm・体重236の巨漢プロレスラー、アンドレ・ザ・ジャイアントを「一人民族大移動」と称したアレと同じ感じのアレか?
一人親方とは
初めて一人親方という言葉を聞いたときは、フリーで一人で仕事をしている人のことを指す俗称だと思っていました。ですが、これは世間で通用するちゃんとした言葉です。
一人親方(ひとりおやかた)とは、建設業などで労働者を雇用せずに自分自身と家族などだけで事業を行う事業主のこと。元々は職人をまとめて仕事ができる能力をもっているという職階をしめす。しかし現代においては労務管理上の問題として取り上げられることが多い。一般的には、建設業や林業に携わる個人事業主をさすが、労災保険の特別加入制度では、一人親方等として、建設業、林業の他に、職業ドライバー、漁業従事者、医薬品の配置販売業、廃棄物処理業、船員を挙げている。なお、建設業には、大工工事業、左官工事業のほかにも、電気通信工事業、しゅんせつ工事業なども含まれる。
Wikipedia:一人親方
要するに一人親方とは、主に建設業に携わる個人事業主のことです。
江戸時代以前から脈々と続く職人の世界において、元々は職人が4つの職階「見習い・職人・一人親方・親方」に区分けされるときの1つの階級のことを指していたようですが、現在では基本的に、個人事業主である人のことを一人親方と呼んでいます。
建設業の歴史はとても長く、現在のように安全かつ効率的に建設工事を行うことができるようになるまで、多くの先人たちが知恵を絞ってきました。
1つの建物を建てるだけでも、大工・とび職・足場組立業者・溶接技師・土木・電気工事・塗装業者などなど、多くの種類の職人が入り乱れて仕事をします。そんな中で、それぞれの仕事を自分勝手にやってしまうと、「壁を塗装したいのに足場が無い」「柱を建てようと思ってたら重機が地面掘ってた」なんてことになり、現場の仕事が崩壊してしまいます。
また、安全面は特に注意しなくてはいけません。まだ組み立て途中の足場に不用意に立ち入ると、転落事故の危険があります。電気工事が途中の状態なのに機械のスイッチを入れたりすると、感電したりする危険もあります。
このように極めて複雑かつ危険な建設現場においては、各作業員の災害時の補償なども手厚く無ければいけません。労災保険に加入しているかどうか、雇用関係はどうなのか、責任の所在はどこにあるのか。それらがきっちり整備されていなければ、作業者は安心して仕事をすることができません。
一人親方ももちろん、作業員の1人として、この複雑な体制の建設現場に組み込まれます。建設業の歴史は長いので、古くからこのような一人親方も建設工事に従事してきました。その長い歴史の中で、一人親方が建設工事を行うためにはどういう手続きが必要か、ということもしっかりと整備されてきて今に至っています。
一人親方の労災保険
会社が労働者を雇用した場合、会社自体が会社の負担で労災保険に加入しなければいけません。これは任意ではなく義務です。この義務のおかげで、労働者は安心して仕事を行うことができるようになっています。
しかし一人親方は労働者とはみなされず、労災保険の適用範囲に入っていません。これでは一人親方は安心して仕事をできないので、代わりに労災保険の一人親方特別加入制度というのがあります。本来は労災保険に加入できない一人親方でも、この特別加入制度のおかげで労災保険に加入できるというわけです。
というより、この労災保険の一人親方特別加入で保険に入っていない人は、建設現場に立ち入ることができないのが普通です。大元請け(いわゆるゼネコン)としても、現場で何か事故が起きたときに、その被災者が労災保険に入っていなかったとなれば、いろいろと管理監督責任が問われてしまいます。
この労災保険の例でわかるように、一人親方という立場は、単なる「建設業に携わる個人事業主」という枠を超えて、手厚く制度が整備された立場なのです。長い歴史の上にたどり着いた、労働者を守るありがたい仕組みですね。
一人親方・フリーランス・自営業
会社に雇われず個人で仕事をする個人事業主は、ここで紹介したような一人親方の他に、フリーランスや自営業と呼ばれる人も居ます。これらは何が違うのでしょうか?
税法上の区分はあくまで、どれも個人事業主です。
しかし、イメージとしてはなんとなく、
- 一人親方 -- 建設業など
- フリーランス -- 講師、ライター、プログラマー、ミュージシャンなど
- 自営業 -- 個人商店など
と呼び分けられている雰囲気があります。なんとなくのイメージなので、対外的に自分を名乗るときは、「私はフリーランスです」と言っても「私は自営業です」と言っても、別に問題はありません。
ただし、いろいろな制度を利用するときは、この違いには注意が必要です。
先ほど紹介した労災保険の一人親方特別加入制度は、その名の通り一人親方しか加入できません。つまり、建設業などの定められた職種の個人事業主であることが条件です。
2020年現在、この特別加入制度は一人親方に限られていますが、働き方が多様化する中で、ライターやプログラマーなどのいわゆる「フリーランス」としてイメージされるような職種についても、この特別加入制度の対象にすべきだという考え方が広まりつつあります。
また、労災保険の特別加入制度には入れない職種であっても、労災保険に代わる補償制度がいろいろな民間の保険会社や財団から提供されています。
例えば建設工事の現場で仕事をするときは、現場入場者は全員名簿に名前を書かなくてはいけません。名前だけでなく、緊急時の家族への連絡先や保険の加入状況、血液型など、詳細な情報を全員が書く必要があります。これは、生命にかかわる事故が発生したときに、迅速に救命活動を行えるようにするためのものです。
その名簿の記入用紙には、「あなたの労働形態に○印を付けてください: 雇用されている/一人親方」のような欄があります。「個人事業主」ではなく「一人親方」とハッキリ書かれています。当然のことですが、建設作業において、税法上の意味での個人事業主であるかどうかは関係が無いからです。
一方で、どんな職種にしろ、一人で仕事をして一人で税金を納めているような人に対する国の制度があったとき、その人の立場は「個人事業主」です。一人親方とかフリーランスとかそういう呼び名ではなく、個人事業主という立場として区分されます。
状況によって呼び名は変わる
僕の場合、職業としてはプログラマーですが、たまに建設工事の現場に立ち入って仕事をするときがあります。なので、状況に応じてそれぞれ、自分をどのように名乗るか、ケースバイケースで変えています。
日常会話的に「プログラマーやってます」と言うときは、フリーランスを名乗っています。
雇用形態や税法上の立場を言うときは、個人事業主を名乗っています。
アンケートなどで職種を選択肢から選ぶ場合などは、自営業を選択しています。
建設工事現場に入場するときの名簿には、一人親方と書いています。
さきほど、個人事業主という枠の中に一人親方・フリーランス・自営業という区別があるかのようなイメージ図を書きましたが、あくまでそれはイメージです。
一人で仕事をするようになって間もない最初の頃は、自分が何者なのかを自分でも把握できていないことがよくあります。名乗るだけなら何と名乗っても自由なのですが、何らかの制度の対象者であるかどうかを見極めるときには、その名乗り方が重要になってきます。
国や自治体や民間企業の補償制度などを漏れなく受けるためにも、自分が何者であるかというのは頭の片隅に入れておくといいと思います。
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